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国立大学に対する評価について

顧問 堀 幸夫/YUKIO HORI

 EAJ NEWS前号(No.79)に「国立大学の独立行政法人化への提言」が掲載されました。これは総理大臣ほか関係者に約300通送付され、全会員にも送られたとあります。  
 この提言にはいろいろ意見があり得ると思いますが、私が今特に恐れるのは、それなりの成果を上げているはずの日本の国立大学を、日本工学アカデミーが公の文書でこのように低く評価したことにより、日本の国立大学が偏った見方をされないかということです。  
  まずお断りしておきたいのは私が国立大学の改革に反対しようとしているのではないということですが、しかしその上で、国立大学の研究と教育をこのように批判されるには何らかの根拠を示してほしかったと思います。極端な批判は一所懸命やっている人の意欲をそぎますし、政策担当者にも偏った先入観を与える恐れがあります。  
  まず「国立大学の研究成果に見るべきものが少なく、外国からも指摘されております」という点については表1のようなデータ(釜江常好「日本物理学会誌」 第55巻 第9号)があります。

(日本物理学会誌第55巻第9号、
671頁表4から引用)
(OECD Education
at a Glance 2000から引用)
表1
表2
 
 これは 5700 編の学術雑誌に関する、世界の大学の自然科学分野の学術論文発表数ランキングです。表によれば、50位以内に日本の国立大学が8つ入っています。また化学抄録誌に基づく論文数ランキングでも日本の国立大学は同様に大きな活躍をしており、とくに近年は1位から4位まではほぼ日本の国立大学になっています(慶伊富長「現代の高等教育」1999年3月号)。これらはかなりの成果ではないでしょうか。  
  「近年の大幅な予算増にも拘わらず」ともありますが、研究者1人あたりの研究費については図1のようなデータ(科学技術白書 平成12年版)があります。大学の研究者の研究費は一番下の線で、他に比べて非常に少ないことが分かります。研究支援者数も大学の場合は非常に低くなっています。表2はOECD各国政府が高等教育に対して GDP の何%を支出しているかの比較(OECD Education at a Glance 2000)です。OECD 29カ国の平均は1.0%、アメリカは1.4%、ドイツとフランスは1.0%、これに対して日本は0.5%で、残念ながら韓国とともに最下位です(ルクセンブルグは例外的に 0.1%)。  
  日本の大学はこのような条件のもとで上述の成果を上げているわけです。本アカデミーが提言という公式文書で日本の大学の成果を非常に低く評価したことにより、高等教育に対する国の支出が万一減ることがあれば、それは世界の趨勢に全く逆行するものです。

 つぎは「教育機関としての大学の評価は極めて低い」としている点についてですが、明治以来日本の大学教育が結果的には日本の発展にかなりの貢献をしてきたことは事実だと思います。これまで確かに日本の大学では教育より研究に重きを置く傾向がありましたが、それはだまっていても自分で勉強する学生が多かったことに甘えていたのでしょう。
  「国立大学の存在、意義が国民に見えない」とも述べていますが、毎年多数の若者が国立大学を希望し受験していることは新聞、テレビの報ずるとおりです。平成11年度には、数倍の競争を経て105,240人の若人が入学しました(文部統計要覧)。国立大学はこれらの若者を大学院も含めて教育しているわけです。その一方で先に述べた研究成果(表1)を上げているわけで、国立大学は国家のために大きな貢献をしてきたと思います。  

  最後に、大学教育についての第一の責任が大学にあることは勿論ですが、産業界、社会一般にも考えてほしいことがあります。  
  提言は教育機関としての国立大学の評価は極めて低いと指摘していますが、国立大学での教育を実効あるものにする一助として、企業等が新人を採用する際、学生が在学中に学んだことをもっと重視してほしいと思います。それによって学生の勉学を刺激することができます。さらに良いのは、その企業が本当に欲しいと思う人材を独自の試験で選抜してくれることです。それによってその企業のフィロソフィーを世に示すことができますし、どういう教育を望んでいるのかを具体的に示すことができます。  
  ところが最近私が会った超一流私立大学の文科系の教授は、就職はだいたい縁故で決まるといっていました。ある大学の学生といえばそれだけで十分で、何をどのくらい勉強したかは殆ど問わないわけです。これではあまり勉強しない人も出てくるでしょう。  
  理工系の場合には縁故のウェートが下がるかもしれませんが、それでも在学中の勉学をあまり問題にせずに採用をきめている点では大同小異でしょう。大学生は遊んでばかりいると言われますが、企業が採用に際して、勉強した学生としなかった学生をはっきり区別してくれれば、学生は必ず勉強するようになると思います。   あまりに早く就職の内定をするのも問題です。このごろは卒業の1年も前に内定するといいます。これは大学での勉学を軽視するものではないでしょうか。大学の教育に対し、産業界も社会一般も、協力してくれると有り難いと思います。
 教育と直接の関係はないかも知れませんが、石油ショックのときなど日本を代表する大会社が求人数を突然2分の1、3分の1、あるいは4分の1と減らしたことがありました。がっかりする学生を見て企業の社会的責任はどうなっているのかと嘆いたものです。  次代を担う若人の育成には、産官学の、さらには政も含めた各界の協力と相互理解がぜひ必要です。そして適度の緊張関係も・・・。
 重ねて申しますが,私は国立大学の改革に反対しているのではありません。

 (注)国立大学に対する批判の根拠として、科学技術白書と、International Institute for Management Development(IMD、スイス)のWorld Competitiveness Yearbook(WCY)の2つをのちに教えていただきました。  
  科学技術白書は手元のものを見ましたが、国立大学をそれほどはっきり批判した箇所はなかったように思います。  
  IMDについてはインターネットで調べました。IMD には WCY の部門があり、そこで47 カ国の競争力を分析したようでした。そして2000年における日本のランキングは、国全体としては47カ国中17位となっていましたが、University Education はなるほど47カ国中47位、つまり最下位とありました。しかしその判定の根拠がわかりませんので IMD に問い合わせたのですがなかなか返事が来ず、結局は IMD に電話し、質問をFAXで送って担当者と直接話し、ようやく様子が分かりました。  
  つまりUniversity Educationについては、それぞれの国の主として産業界、実業界のトップあるいはミドル・マネージメントにアンケートし、それぞれの国の大学をいろいろの項目について採点してもらい、それをそのまま集計したものだそうです。私は IMD が何か客観的な根拠に基づいて評価したのかと思っていましたが、そうではないようです。 結局、日本の大学が47カ国中最下位というのは、日本の産業界、実業界が日本の大学に非常に低い点を付けたということです。他の国では大学がもっと高く評価されているのでしょう。  
  私が、それらトップの人も多くは日本の大学の卒業生だし、彼らの会社で働いている人も日本の大学の卒業生だし、それで日本の産業はかなりの成功を収めているわけですが、どうしてこういう評価になるのでしょう、とたずねたところ相手の人は、分かりません、とにかく低い評価が来るのですといっていました。私が産業界、実業界だけでなく大学にもアンケートしたらどうですかと言ったところ、大笑いして、それは全然違ってくるでしょうとのことでした。(平成13年2月15日記、同3月15日、4月30日修正短縮)

 

研究者1人当たりの研究費の推移(実質)

研究者1人当たりの研究費の推移(実質)
(科学技術白書平成12年度版から引用)

 


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