第2回〈通算第18回〉 定時社員総会における会長挨拶 

 2013年は、当会が公益法人化して最初の年となりました。公益法人化に向けて、2012年度は当会のあるべき活動についての議論が中心でしたが、公益法人化後は、イノベーションの駆動力たる工学について、多様な議論や発信が熱を帯びつつ活発化していきました。こうした進展は、会員の皆様のご理解・ご協力の賜物であり、深く感謝申し上げます。
 地域支部の活動では、北海道・東北支部、九州支部で、独自の企画による講演会や意見交換会が開催され、交流の活発化がみられました。そのテーマも、大規模災害への対応、健康医療、エネルギー供給などといった分野における工学の役割に関するものであり、まさに今日的な課題に対応した議論が展開されました。
 国際交流では、国際工学アカデミー連合(CAETS)年次総会(2013年6 月、ブタペスト)へ出席してまいりました。また第16回東アジア工学アカデミー円卓会議(2013年12月)、日本工学アカデミー・SRI International合同シンポジウム(2014年1 月)が、それぞれ東京で開催されました。特に東アジア工学アカデミー円卓会議において、深刻な大気汚染に悩む中国から、日本からの環境技術移転の必要性について発言があったことは非常に印象的でした。途上国へ産業革命が普及する中、課題解決先進国である日本が有する工学的知見の移転ニーズは益々高まっていくことでしょう。
 人材育成では、九州支部でスーパーサイエンスハイスクール指定を受けている高校の学生を対象に、当会会員他が講演会を行いました。「生活を豊かにする工学」という複合的な領域のテーマに対して、4 名の講師が各人の専門分野に基づいた講演を行うというユニークな試みがなされました。次世代の人材育成の裾野を広げるには、こうしたアプローチも必要でしょう。
 以上は2013年度の活動例ですが、これらの活動を通じて感じるのは、工学への期待も変容しているということです。工学に求められる成果は、これまでのモノが普及することで成長した時代とは異なり、将来の不確実性が高まる中でのイノベーションです。ハードルが高いように思えますが、一方でイノベーションのコストは下がっています。何故なら、高度に複雑化した技術や社会システムの中で、既存の技術や社会システムの新しい結合によって生じるイノベーションの余地が大きくなっているからです。
 不確実性は高いがイノベーションコストは下がっているという状況下では、あるべき社会イメージを設定したうえで工学的な対応を検討するというバックキャストアプローチも有効です。未来は絵空事ではなく実現するもの。それが工学に携わる我々の矜持であるはずです。バクキャストアプローチは、そうした思いに応える方法論となるでしょう。そうした検討も含めて、今後とも議論や発信が活発化することを期待します。

2014年 5月22日

(公社)日本工学アカデミー 会長

小宮山 宏