2014年 年頭のご挨拶 

 新年おめでとうございます。
 「21世紀は人類史の転換期であり、工学も変容を迫られている。」これは、私が日本工学アカデミー会長の任を拝命して以来、皆様に強く提起させていただいている問題意識です。
 人類史の転換を示す要素は少なくとも3つあげられます。それは、産業革命の普及、人工物の飽和、人類の長寿化であり、今後の成長戦略を考える上で非常に重要な枠組みとなります。
 超長期的に農業生産中心で均衡していた社会を一変させたのは、200年前の産業革命です。産業革命は、はじめは先進国への富の集中という形で進んでいきましたが、現在では新興国などを中心に世界の国々に普及しつつあるのです。産業革命が世界的に普及する一方で、先進国では、人工物の飽和によって量的な豊かさを求める需要が飽和しつつあります。これが、先進諸国の成長鈍化や景気停滞の構造的要因となっています。
 また豊かさの普及とともに人類が手に入れたのが「長寿」です。20世紀のはじめには31歳であった世界の平均寿命が、2011年には70歳に到達しています。長寿は文明がもたらした成果なのです。
 量的な豊かさが満ち、かつ長寿となった人類が次に求めるのは何か? それは「質を求める」ということに他なりません。私は、生活や社会の質を追求する社会を「プラチナ社会」と称していますが、プラチナ社会の実現こそが、今後の成長の地平を拓くことにつながると考えます。つまり、日本などの先進国では、質を求めることで新たな需要を創造していくことが求められている、ということです。
 質を求める重要なテーマとして、活力ある長寿社会があげられます。高齢化社会は大きな社会的課題ですが、これを好機ととらえ、医療・介護という枠にとらわれず、健康・自立といったより裾野の広い視点で、新しい需要を創造していくことが必要です。
 例えば、個人の健診情報、診療情報、遺伝子情報などをビッグデータとして統合的に活用することで、健康づくり、予防医療、個別化医療、新薬開発はもちろん、食、運動、保険など多様なビジネスが拡大するでしょう。また、医療・介護ロボット分野では、例えば、血管中を移動可能なナノサイズの診断ロボットや、脳で思うだけでロボット義足や義手を自分の体の一部のように感じて動かせるスマートな技術も実現するでしょう。
 高齢化社会は、先進国だけでなく、今後遠からず、世界が経験する課題です。したがって、活力ある長寿社会というテーマで、どこよりも先んじてイノベーションを起こすことが、国際競争力の観点からも重要となるのです。また、こうしたイノベーション創出の前提として、「産業が成長すれば暮らしが良くなる」という途上国の発想ではなく、「暮らしをよくすることで産業が生まれる」へと転換が必要となります。同様に工学分野の取り組みは、産業革命の普及期では、規格化、大量生産、供給志向といった特性がありましたが、プラチナ社会においては、多様性、質的充実、需要志向へと変容を迫られることになります。
 以上のような認識の下で、アカデミーでは、本年も自由闊達な議論とともに、イノベーションのエコシステムづくりに貢献するような発信を行っていきたいと思います。何よりも若い世代に、上記のようなイノベーションの種を、実現可能な夢として託していきたい。その点で、社会ビジョンに基づくイノベーションの種の掘り起こしや、今後の開発テーマの提示などは、工学アカデミーが担うべき重要な役割であると考えます。
 本年も、皆様のアカデミー活動への一層積極的な参画を期待しております。

2014年 1月

(公社)日本工学アカデミー 会長

小宮山 宏