第16回 通常総会における会長挨拶

 2012年度は、長引く欧州財政危機、新興国の成長鈍化、日中の政治的緊張、等といった状況下で、我が国にとっては、非常に厳しい舵取りが要求された年でした。
我がアカデミーにとって特に印象深いのは、日中の政治的緊張の影響により、9月に福岡で開催予定であった第16回東アジア工学アカデミー円卓会議(EA-RTM)が、延期となったことです。当時は、様々な国際会議が同様の事態になったようですが、アカデミーのような活動にも、国家間の政治的緊張の影響が生じたことは、非常に残念なことであります。時に国家間で政治的な緊張が生じることがあるかもしれませんが、科学・技術や文化に携わる人間同士の国際交流は、不断に続けていく必要があると考えます。あらためて、工学アカデミーは、人類の持続可能な未来を拓く工学のあり方について、真摯にかつ自由闊達に議論する場であることを再認識したいと思います。
 また、2012年末には政権交代によって安倍内閣が発足しました。長引くデフレ不況を脱却するためのいわゆるアベノミクスへの期待が、その後の株価上昇や円高是正にも少なからず奏効しているようです。期待先行とはいえ短期的には、経済再生への弾みが多少なりともつきつつあるのかもしれません。しかし、真に問題なのは、アベノミクスの3本目の矢である成長戦略であることはご承知のとおりです。成長戦略がどのような内容であれ、最も重要なことはイノベーションの実現であると考えます。工学はまさにイノベーションの追求活動そのものといえるでしょう。したがって、工学アカデミーの活動が今後の成長戦略に貢献できるところも大きいと考えます。2012年3月には、工学アカデミーより、「デジタルデータを超長期間、安定かつ安価に保管することを可能とする技術開発の必要性」といった提言が発信されました。これは、「人類にとって貴重な情報の多くが消失する危機にさらされている」といった先見性のある問題意識から検討されたものです。政策的な成長戦略分野にも配慮しつつ、今後とも、このような提言活動を活発にしていきたいと思います。
 2013年度以降は、イノベーション実現に向けた産学官の取組が活発化していくことでしょう。物量的な豊かさを手にした先進国では、生活や社会の質を求める創造型需要が今後の成長の鍵となります。したがって、質を求める市民や生活の場である地域が創造型需要の起点となるでしょう。まさに創造の源は多様性です。一方で、そのような需要を喚起するためには、工学に携わる立場から、課題を構造化し、課題解決による未来の可能性を提示し続けることも必要です。
 2013年度は、以上のような視点を踏まえて、工学アカデミーとしての提言や情報発信、国際交流、人材育成活動を進めていく必要があると考えます。皆様の一層のご支援をよろしくお願い申し上げます。

2013年 5月22日

(社)日本工学アカデミー 会長

小宮山 宏