年頭のご挨拶 2009年賀詞交歓会において

 皆さん、明けましておめでとうございます。
現在は100年に一度の世界経済危機で、日本開国150年にして三度目の国家存亡の危機であるといわれています。最初の二回、即ち鎖国開国時、敗戦時の国土壊滅の危機は、工学技術・産業技術に国家的重点を置くことにより切り抜けました。第三の危機は正にグローバル化に直面して力を失っている現在だというのです。
 この危機を乗り切るには、資源も国際政治力も持たない日本としては、過去と同様に、先端工学を含む技術力を強化し、これを産業に適用して経済力を強め、生き残っていくしかないと思われます。然るに現在の日本では、工学の重要性が政府筋にも一般にも充分理解されていないのが大変気になります。
 最近、日仏工学アカデミーの会長・国際委員長間で意見交換する機会を得ました。その際「フランスでは、科学アカデミーも工学アカデミーも100%近く政府の財政支援の下、夫々約250名の会員を擁しているが、今後工学をさらに重視していきたいと思っている。日本ではどうなっているのか?」という質問を受けました。
 日本工学アカデミーは現時点での正会員は657名ですが、政府の財政支援は得ていません。政府資金によるアカデミー相当のものには、日本学術会議及び日本学士院がありますが、いずれも学術全般をカバーするもので、工学部門の会員は、実質夫々約30名、15名に過ぎません。日本政府の工学に対する姿勢を海外はどう見ているのか、考えさせられるものがあります。
 日本工学アカデミーとしては、このような国家存亡の危機に際し、本来の設立の目的と使命を熟慮し、内外の関連先との交流を深め、適切な政策提言を心がけたいと思います。
 今年の日本工学アカデミーの方針として次の三つを掲げます。
1)会員すべてが日本工学アカデミーの使命と価値観を共有する
2)工学アカデミー国際ネットワークの国内外における積極的活用
3)日本工学アカデミーの持続的財政運営
の三つです。
 全国の会員が等しくその使命と価値観を共有し、参画できるよう、昨年は地域活動の活性化に力を入れました。今年もその努力を続けるとともに、皆様に会員であることの意義・利点をより強く認識して頂くための施策を検討します。
 国際ネットワークについては、CAETSメンバーとしての活動を中心としつつ、さらに多国間、二国間の先端技術交流を推進したいと思います。昨年は日英、日仏二つのシンポジウムをはじめ、多くの実績を残すことができましたが、その基盤の上に一層の拡充を図ります。
 持続的財政運営については、規模・価値観に見合った財政基盤の確保が必要ですが、個人会費、産業界のご支援、政府や公的機関の資金導入の三つを総合的に考えていきたいと思います。昨年は少しずつながら夫々に前進が認められましたが、本年もさらなる努力を傾注します。
 以上の方針に沿って、政府、産業界に対する時宜を得た政策提言をはじめ、国内外において有意義な活動を積極的に展開していく所存です。会員の皆様には、昨年のご努力に感謝するとともに、本年も引き続きご理解とご協力をお願いいたします。

2009年 1月15日

(社)日本工学アカデミー 会長

中原 恒雄