第8回 通常総会における会長挨拶

 漸く、日本の経済再建を果たすためには創造的科学技術の成果を挙げることが不可欠であるということが社会で広く理解されるようになったことは、本アカデミーにとって大変有難いことであります。しかし、現実的にそういう科学技術が育つようになっているかというと、残念ながら全く背筋が寒くなるような話で、早くあれも出来た、これも出来たといえるようにしなければなりません。我等が日本工学アカデミーは益々の努力を誓わなければならないと考えております。
 同時に、丁度二年後に国際工学アカデミー連合の年次総会を日本で開催することになっております。これと同時に、何等かの絞った分野での世界規模の大会を開くことになっており、国際委員会が中心となって検討した結果、環境問題で実施することになりました。開催地、講演者など中原恒雄副会長、三井恒夫副会長にも加わって頂いてご議論頂いておりますが、山本義一先生、稲田献一先生あるいは真鍋淑郎先生といった先覚者のおられた日本の名誉にかけて素晴らしい会議にしてゆかなければならないと考えております。何しろ、全人類の存亡がかかっていると思いますし、山本先生の実測を解析接続法で延長した我々の計算では、4%という炭酸ガスによる人間はじめ恐らく全ての動物の致死量に達するまで、今迄どおりの生活を続けて行ったとしたら、あと二百年ということになります。真鍋先生はその前に、どこに行ったかわからなかった炭酸ガスが深海底の岩盤にとけているのではないかという深海底説を計算機解析された結果、海底に飽和して異常海流に乗って浮上爆発し、一気に温暖化と炭酸ガス量の増加が生じ人類が滅亡するのは五十年後と推計されました。既に十年近くが過ぎておりますから、あと四十年に迫っているともいえます。このような危機にある全世界の人々にとって、会開催の意義は極めて大きいと言わねばなりません。
 話は変わりますが、十年程前から日中韓三国で円卓会議を毎年開催して東アジアにおける科学技術の共同による効果的発展を目標として参りました。昨年は中国蘇州で行われ、韓国のJ.G. Lee教授のご提案によって、参加国で相互に工学倫理を守ってより有効な科学技術開発を行うことを共同宣言とすることを討議、日本から上野晴樹先生がその具体化に多大のご努力をなさった結果、共同宣言が発表されたところであります。不幸にして日本の新聞は日本経済新聞社一社を除いて取り上げていただけませんでしたが、その意義は大きかったと思います。
 日本国内においても、大学の独立行政法人化をきっかけに、このようなことが非常に重要になる如く、倫理が著しく乱れていることは目を掩うばかりであります。私としては、国内外に亘って連繋してエンジニアリング・エシックスを守るという喫緊の要事を早急に展開したいと考えております。
 研究題目をもらった弟子が教えてくれた師の名前を引用することなく、あたかも全部自分のアイディア、業績であるかの如き発表を行って資金を集めるといった寒心に堪えない事件が私の身の回りにも起こりつつあり、このままでは正常な研究チームの編成すら行えず、国際競走力が著しく低下してしまって、最初にのべた日本の経済力に対する貢献も覚束無くなっていると甚だしく憂慮せざるを得ません。
 日本の悪癖として、国内競走には夢中になるのですが、より大切な国際競走には目が向かない点があると思います。経済力という点になれば、本当に必要なのは国際競走であって、他の人のことなど気にせずに自己陶酔していなければならないともいえましょう。
 日本学術会議も新しく生まれ変わります。我々もこれに協同しながら国際性を強化することが不可欠であります。

2005年 5月19日

(社)日本工学アカデミー 会長

西澤 潤一