第7回 通常総会における会長挨拶

 GDPの増加が年3.2%になったとのこと、経済回復も本調子になってきたと言われるようになってきましたし、本会副会長の中原恒雄先生もこの度英国から叙勲されるなど、本会の活躍も急速に国際化しはじめています。しかし、本格的回復のためには、本会会員の諸先生方をはじめとした日本の工学者が世界に突出できるような大きなインパクトを与えるような工業製品をいくつか生み出すことができなければいけないと思います。何しろ、急に膨大な台数の生産に入ったといわれているエンジンを担当しているマツダ自動車が、世界に轟いたロータリーエンジンの技術者を含め、研究開発部中心に7,000人のリストラを発表したら翌日だけで6,700人の退職希望者が殺到してあわてて打ち切ったと伝えられたのはついこの間のことでした。景気回復に当たって上昇力を生ずる筈の研究開発部のリストラをやってしまっては本当の推力は出てこないと思われます。
 やはり、日本の場合、最大の生産収益は工業生産において期待できるわけですし、海外諸国に迷惑をかけない生産は、類似製品を作るのではなく、新しい従来はできていない創造的製品を生み出して、これを量産して輸出する以外にないのではないでしょうか。同様な製品であれば、安ければ安い程、高品質であれば高品質である程、同種製品を作ってきた国に与える影響は大きいのです。何処でも作られていない製品であれば、画期的であれば、世界中の人に新しい可能性を作って差し上げるのだから、外国の人にも感謝される勘定になります。我々のところにも売れといわれて、逆に輸出が間に合わないと摩擦が起こるかも知れないのです。
 前回の好景気は、米国から教えてもらって工業製品を作ることから始まり、安かろう悪かろうから、遂に安かろう良かろうの境地にまで達して、師父たる米国工業にまで被害を与えることになり、その怒りを買うことさえあったことは、忘れられない記憶であります。従って、今回、長い長い不況から抜け出すに当たって、最初は無理かも知れませんが、可及的速やかに製品を独創性の高いものに切り換えてゆくことが不可欠ではないでしょうか。
 そういう点からいって、本アカデミーの使命は、未だ嘗てなかった程重大です。会員諸先生のご尽力によって、本会のお世話した数多くの創造産業が生まれてこなければならないと考えます。
 また、急速な中国・台湾・韓国の産業の向上が、世界に大きな影響を与えるまでに大きくなりました。このアジア圏産業が再び模倣改良産業だけに集中して、嘗ての苦い失敗を繰り返すことになってはなりますまい。我々の経験を生かして健全な経済展開を実現してゆかなければなりません。
 幸いにして、私の研究グループでも40年前に予告した方法でテラヘルツ波の発生が小型で大電力を要しない機器で出来はじめました。
 2000年に癌などの検知や治療に使える見込みを発表し、翌2001年のテロと炭疽菌事件の発生により一躍脚光を浴びるに至りました。一応基礎的な機器開発には成功して、今のところ世界のトップにあると思いますが、その後、有機化学者による理論・実験両面からの基礎データを固める研究グループの発足については二年間も採択にならず、足踏み状態です。更に、生化学・食品科学・生理学・病理学或いは薬理学への応用を展開して、世界の人々に貢献しなければなりませんし、同時に我が国経済の安定成長への貢献を早く開始せねばなりません。
 このような分野にも是非、お力を賜ることをお願いして、2004年度日本工学アカデミーの発足のご挨拶とさせていただきます。

2004年 5月19日

(社)日本工学アカデミー 会長

西澤 潤一