2004年 年頭の辞

 厚い壁を打ち破って坂村健先生がトロンの実用開拓に成功され、半導体工場は休暇返上で大増産中であるとの嬉しい報せが2004年を迎える第一報であった。
 我が国の国情からいえば絶対不可欠というべき新科学技術の創造が、予てから言われていた通り現実の救世主として姿を現したというべきで、十年来の不況を脱することが出来るかも知れないと胸の鼓動高まる思いである。
 私事に亘るという謗りを免れないかも知れないが、同じく有力な項目となると考えているので敢えて言わせていただくと、40年前からの構想で、高分子や結晶中の原子間の固有振動がテラヘルツ(THz)周波数帯に入ることから具体的にはラマン効果やパラメトリック増幅を利用して半導体や誘電体を用いたTHz発振に成功したのが1980年頃から2000年に亘って、膨大な自由電子レーザによるもの以外では、数種類の発振器は仙台市青葉山で生まれたものだけである。更にこれを用いれば、分子構造が分かり、癌に介在する特殊分子の中の共鳴振動から癌の同定が出来るだろうと発表したのが2000年のことであった。其の後順調に展開が進んで、麻薬とその産地の同定、癌の同定、糖分の分子構造による分類など難しいと思われた問題が簡単に進んで、O-157の検知、更にはSARSの検知、AIDSの検知など、病菌ヴィールスの分子構造に基づく分類と対抗薬物の分子論的開発など膨大な研究展開が行われなければならないのを予感させられている。やがては、情報通信網の設定に並んで、人類環境の健康保障の通信網に展開できるものと考えている。既に癌の検知が分単位の時間で、細胞検査の結果を待たずに実施できる。
 これも、人類に経費以外の負担を加えることなく新しい産業展開を可能にすることなので、我が国が展開すべき創造的科学技術の典型ともいうべきことであるし、更に言わせていただければ、人間や自然に対する愛情溢れる科学技術であるから、正に工学の工の字の意味する東洋独特の工業技術でもあるし、薬理学・創薬学の新手法、生物物理、生物科学にも一つの新しい手法を展開してゆくことになると考えている。
 何れにせよ、坂村先生のお仕事のようなものが次々と日本に現れなければ本格的経済回復はあり得ないのだし、この際マネーゲームだけで本格的経済回復はあり得ないということをしっかり頭に叩き込んで、今後の経済展開のための大きな教訓としなければならない。このような過ちは二度とやってはならないことだといつも念頭において、日常業務として創造的次期産業の展開だけは必ず実施していくことを肝に銘じておきたい。
 今回のような仕事の結果として人間や生物の健康管理も経常的に行われるということになれば、喜びに堪えないところである。
 いよいよ21世紀は本番に入る。会員諸先輩の御健闘を称えあい、国内のあらゆる才能を発掘利用すべきで、妨害することなど即刻やめるべきである。

 

2004年 1月15日

(社)日本工学アカデミー 会長

西澤 潤一