公開シンポジウム「日本の経綸を問う」 開会挨拶 

公開シンポジウム「日本の経綸を問う」-環境、エネルギー、食料-
開会挨拶

 

科学技術は人類に苦痛からの癒し、更には生命維持のために貢献して来ました。18世紀末から19世紀初頭にかけてマルサスとエンゲルスの間にあった討論は、当時既に、このような意義付けがなされていたことになります。

産業革命は偉大な「苛酷な労働からの人類の救済で、人類文化史の上のマイルストーンとなったのも当然なのです。しかし、これを破ったのは人間自体の怠惰と享楽が原因であります。自然は暖かく人類を養ってくれていましたが、産業革命を契機としてエネルギー消費が殖え、生活環境の改良によって乳幼児の死亡率が低減した結果、人口が急増し、全消費エネルギーは千倍にもなろうかと思われます。これが炭酸ガスになるのです。

しかるに、人間は自然の恩恵に甘え切ってこの猛烈な化石燃料の消費に注意を払いませんでした。嘗て70%あったとか90%以上とか云われる大気中炭酸ガスを太陽の光のエネルギーを藉りて植物は炭水化物として我が身体として取り込み、取り除かれた酸素は大気中に排出される。大きな羊歯や猛烈な数の珪藻によって、さしもの炭酸ガスも食い盡され、何と僅か0.03%にまで減ってしまったのです。ところが、人間が折角石炭・石油になって動物の生存を可能にしている炭素を燃やすことによって炭酸ガスを大気中に開放してしまったのです。

しかも、その殆んどを占める石油はあと70年で燃し盡してしまうと云われるまでに危険も意識せずに炭酸ガスを放出しつづけてしまったのです。本来なら、大気中の炭酸ガス密度はもっと大巾に増えていなければならなかった。それが殆んど増さないままに今日に至ったのは、何物かが炭酸ガスを吸いとってくれていたと云うことなのです。

此処で警鐘を鳴らしたのが、他にも居られると云う話を聞いていますが、東北大学に居られた山本義一先生で、この説の重要性を直ちに理解して、岩波書店発行の世界に紹介の論文を書かれたのが、つい昨年逝去された阪大経済学部におられた稲田献一先生で、多分昭和34年のことでした。今日、環境問題の元祖とされるレーチェル・カーソンが「沈黙の春」を書いたのが昭和35年ですから、恐るべき創造性であると云えます。

ローマクラブの会場から直接文部省に駆け込まれたと聞きますが、ローマクラブでの環境問題の警鐘を学術審議会で報告されたのは茅陽一東大教授でしたが、昭和の末で、山本・稲田両先生の達見であり、日本に於ける環境問題の先達として、尾瀬沼を守られた大石武一環境庁長官と共に銘記すべきです。

この炭酸ガスは海中に吸収され、海底に沈下しながら、メタンの水化物に変り、海底に大量に沈んでいることが確認され、行方不明だった炭酸ガスの行方が漸く判明したのですが、私がやった大気中の炭酸ガスの密度の経年変化を解析接続法で将来に向かって延長してゆくと動物の致死量4%に到達するのは大凡200年後となりますが、海底のメタン水化物がもう殆んど飽和しているので、入り切らなくなり、次第に海面近くにも濃厚になり一寸した海流や波の工合で海面上に現われ、爆発を起すとか温室効果を強くして増々海面に多く浮上してくると云う繰り返しで、地球上の動物が死滅するのではないかと云うコンピュータシミュレーションがプリンストン大学教授の眞鍋淑夫先生によって発表され、この結果では動物死滅は50年後ということになっております。

つまり長い間、人類の側に立って怠惰や享楽をさえ受け入れてくれていた自然と科学技術は、恐ろしい別の反面を、今我々に示したとも云えるのです。

燃料涸渇の対策として、このメタン水化物を海底から汲み上げ、エネルギーを使おうと云う試みも真剣に取り上げられています。長い間の自然の寛容に慣れて、まだ飽くなき自然の恩恵に甘えてよいものか否か、若し、発生した炭酸ガスが海面に吸収され、恐らく太陽の助けを借りて、メタン水化物となって海底に沈む早さがおそければ、大気中の炭酸ガスの密度の増加は避けられないものとなるでしょう。その時温暖化が進み、海底から下がった飽和溶解度の分だけ浮き上がってくるメタン水化物が大きな患いを起すことになるのではないでしょうか。

今、基本的な過程を把握することなしに、利用に突っ走ることは大きな危険と云わざるを得ません。

我々に殆んど永続的にエネルギーを補給してくれるのは、太陽です。その誘発する風の力や降雨による水の力も、太陽の輝く限り、保証されています。不安定な太陽電池や風力の他に昔から利用した水力こそ最も経済的なエネルギーの取得方法です。農業用と兼用しようとするから巨大な貯水を必要とするのですが、発電専用であれば、段差だけあれば発電は出来るのですから、大きな環境変化を起さずに済みます。この水力だけで、全人類のエネルギー使用は、すべて賄うことが出来ます。

従来、交流送電でしたから30km程度までしか送電は難しかったのですが、私達の作った99%直交変換器で変圧器に入れる交流電力を作り、変圧器も99%効率ですが、出力を交直変換器に入れて直流に直せば、全損失3%で、直流変圧器が出来たのと同じことになりますから、直流1万キロ送電が現在の送電線を再利用して可能と云うことになります。更に太い送電線を敷設すれば、地球全体を蔽う2万キロ送電も実現出来、有無相通ずるばかりでなく、平均化による安定化電源を確保することが出来、世界の炭酸ガスの増加に歯止めがかけられると思います。水素を作って航空機や自動車を動かしたりすることも可能で、此処に人類はエネルギーに纏わる危機を脱することになるのではないでしょうか。

昔、製鉄を行うために用意した土地に成長する樹木を伐採して製鉄を行い、跡地に植林すると云う繰り返しで、自然保護を守りながら鉄を手に入れていたと云うことを教えていただきました。先祖の智慧をも学びながら余りにも奔放になってしまった我々の生活を折角の叡智を活用して見直してゆくところに人類の21世紀、更にその先があるのではないでしょうか。

恵まれた自然の美しさを護りながら、生活を続けて来た我々の先祖の智慧を、更に近代化して、地球の持続可能な発展に資することこそ、我々日本人の一つの義務とも云えるだろうと考えます。

ITもそうですが、エネルギーネットワーク、更に現在展開中のテラヘルツ波を利用した人類と地球の安全を守るセキュリティ・ネットワークの建設は私のライフワークだと思っておりますし、日本の技術者の方々が世界貢献の具体的活動として頂いてよい人類と地球への貢献ではないのでしょうか?

2003年 3月17日

(社)日本工学アカデミー 会長

西澤 潤一