2003年 年頭の辞

 遂に経済見通しは三ヶ月連続で下り気味と発表されて新年を迎えた。日銀券の流通額は恐らく単一年度を除いて連続十四年以上減少しているらしい。これでは活性度が落ちてしまうのは己むを得まい。
 すでに不況は余りにも長きにすぎ、漸く消えたと思ったホームレスの人々が再び増えて来ているなど、目に余るようになって来た。国民の財力も精神力も限界に来たと云えよう。
 やはり工業として展開できる能力のある新しい科学技術を創成して、新産業を興さなければデフレ傾向に歯止めをかけることも、GDPを向上させることも不可能であろう。
 大体工業製品はそのまま作りつづけていれば、競合製品が出たり、新しい製法が見付かったりするから、安値になり、それでも競争力を失うのは当たり前である。競争力を失わない限り、製造は中止されないが、次第に利幅は減少するので、いろいろな改良が加えられてゆくのだから、ある意味のデフレは工業には恒につき纏う。対抗手段は改良であり、更には新製品を創り出すことである。つまり経済不況の脱却手段としては新製品の開発を先ず挙げなければならない。現在の不況の発端はマネーバブルの崩壊と云うことになっているが、先行して起こっていたのは所謂シロモノ不況であった。改良になってしまっていた家電製品が新商品種切れとなり、低賃金を武器とした海外工業に地歩を奪われ、急遽IT産業の導入があってかなりの成功があったものの忽ちにしてバランスを崩して現在苦闘中である。我々のような昔を知った者から見ると目立つ新製品が殆どない。
 我々工業関係者としては、先ず率先して自らの手で新製品開発に成功しなければ日本経済に朝は来ないことを自覚しなければならない。自ら新製品の開発に才能を持たないと判断した者は、他人の才能を見出し、且つこれを援助してゆかなければならない。
 考案も要れば、開発研究も要る。製造プロセスの開発も要る。一人で全部こなせる人は甚だ稀で、他人の援助を請わなければならない。また手配師も要る。何れ劣らぬ天才的人物集団があって初めて創造は成功する。折角できるものをミスミス開発研究者の選定を誤って失敗した経験も生産者が適切でなかったばかりに失敗した例も数多くある。
 万人みほとけの子である日本に選択制度を導入するのは甚だ難しいのだが、自己評価に務める一方、適材適所こそ、二十一世紀社会の特長であることを今のうちに率先自覚すべきであろう。
 筆者の四十年来の夢を須藤建教授が二十年程前に実現し、格子振動を利用してテラヘルツ波を発振することに成功し12テラヘルツを得た。これらを巨大分子・ビールス・バクテリアの同定と治療に利用しようと云う試みは大きな産業に展開できるものと確信して実験を展開中であるが、自らも、具体的に成功して、よき前例を作ろうと努力中である。

2013年 1月15日

(社)日本工学アカデミー 会長

西澤 潤一