会長からのメッセージ

ジェンダーシンポジウムに参加して

 工学アカデミーは2017年11月にジェンダー委員会を設置し、渡辺美代子理事に委員長をお願いしました。
 工学や科学技術分野では、女性研究者や女性エンジニアの比率が小さいことはしばしば指摘されています。人口減少を補完するために女性の進出を期待する意見がありますが、これは正しくありません。人口増は、多面的な社会改革によるべきであり、それが本道であると考えるからです。去る3月31日に行われた第1回EAJジェンダーシンポジウムは、未来社会への変革を予期させるものでした。
 第一にロールモデルの素晴らしさです。弛まないパイオニア精神による女性土木技術者の活躍はまさに驚異でした。イノベーションの創出には多様性がキーワードの一つです。新たな分野の研究には男女の共同が有効であるとのドイツのデータ、また学際研究は女性の比率が大きい、との説明は興味あるものでした。これが第二の収穫です。まさに新しい産業やビジネスの創出、社会の変革が問われている今日、女性研究者、女性エンジニアのさらなる活躍が不可欠です。
 科学や技術の進歩は、確かにロールモデルの牽引によるところが大ですが、それに続く世代の環境整備も併せて大切です。
 私が会長に就任した一昨年の夏に会員増強策を掲げ、関係各位のご努力により企業系会員の増など全体的には右肩上がりになりましたが、女性会員は残念ながら微増にとどまっています。反省事項の一つです。
 さて様々なデータが示すように、日本の科学技術競争力は、とくにここ10年低下の一途です。大学の国際ランキングも低迷を深めています。残念ながら近年の熱心な科学技術政策の実施と大学改革の結果による凋落なのです。この凋落をくい止めるために、日本工学アカデミーは、昨年5月に緊急提言を取りまとめました。緊急提言の内容はすでに公表していますので、改めての説明は省略しますが、一言でいえば、改革の視点が欧米とは大きく異なってしまったためではないでしょうか。文章にしただけでは不十分なので関係者に緊急提言の説明にまわりました。政治家や行政の中枢から、大きい変更の提言ですのでまだほんの一部ですが、一定の激励が得られ始めています。アカデミーの大きい役割の一つは専門家集団としての政治への助言であり、これからも微力を尽くしていく所存です。
 またこのような日本の危機にあたり、科学者コミュニティーが行動することを強く叱咤激励された政府の元大臣も女性でした。男社会の保守性による限界なのでしょうか。いずれにしても科学者/専門家集団の責任は大きいといえます。
 緊急提言はともかく、ジェンダーの課題は多様です。日本工学アカデミーは、ジェンダー委員会の活動を、人類及びわが国の未来を動かす最重点の一つと考えています。

2018年 4月27日

(公社)日本工学アカデミー 会長

阿部 博之