会長からのメッセージ

2020年 年頭のご挨拶

 明けましておめでとうございます。令和に入り最初の正月です。
 2019年のノーベル化学賞は旭化成の吉野彰博士に授与されました。わが国の化学賞受賞者は8名で、企業からは田中耕一博士に次ぐ快挙です。リチウムイオン電池の商業化に向けては、多くの研究者、技術者がしのぎを削ってきましたが、そのなかで原型ともいえる役割を果たした3名が、受賞の栄誉に輝いたのです。別の見方によれば、画期的なイノベーションへの寄与と言えるでしょう。
 吉野博士の成功は、1980年代の研究成果によるものとされています。しかし企業の業績につながり、イノベーションとして評価されるまでには長い年月を要しました。一方では90年代の半ば以降から企業の研究環境は大きく変貌し、日本の企業からは画期的なイノベーションは出にくくなっていると、国内のみならず海外からも指摘されています。ノーベル賞はイノベーションを前提にした賞ではありませんが、未踏の分野の開拓がイノベーションの実現につながっているのです。ところが現状の研究活動をみると、企業はもちろんのこと大学等の研究機関からも、ノーベル賞級の研究は出にくくなるとの警告が、多くのノーベル賞受賞者から出されており、このことは真剣に受け止めなければなりません。
 イノベーションは企業活動です。しかしながらイノベーションの芽の創出は優れて大学に向いています。昨今の大学の研究者は、流行のテーマや企業がいま求めているテーマに関心を持ちすぎていないでしょうか。未踏の分野や企業がまだ求めていないテーマを探索し、挑戦していくことは大学の役割です。このことは決して新しい指摘ではありません。ノーベル賞受賞者を含めわが国の独創的工学研究の先達による折にふれての教えであり、このことを今こそ大切にするべきです。
 企業、大学、研究機関それぞれの立場で、イノベーションの創出に向けた投資を含む環境整備に何が必要か、環境整備を阻んでいるものは何か、について改めて考えてみようではありませんか。
 昨年も会員各位のご協力により、EAJは様々な活動を行うことが出来ました。ここでは、そのなかの一つである第2回のEAJフォーラム“これからの工学が果たすべき役割を考える”(6月4日開催)について触れておきます。専門を越えて多数参加していただくことを目的に、中西友子副会長を中心に企画・運営され、大盛況でした。これまでの2回の経験を踏まえ、さらに会員から評価されるフォーラムになるよう努力していきたいと考えています。その他の活動については、EAJの活動報告やEAJ NEWSに譲りますが、今後とも会員とともに、EAJならではの活動に注力していきたいと考えています。
 本アカデミーの正会員数は、812名(2019年11月現在)です。1年前と比較しますと、46名の増加です。その中の女性会員は4名の微増で38名です。一方賛助会員は、昨年と同じ48社です。
 会員各位のさらなるご健勝を祈念し、新年のご挨拶といたします。

2020年 1月 1日

(公社)日本工学アカデミー 会長

阿部 博之