会長からのメッセージ

2021年 年頭のご挨拶

 明けましておめでとうございます。
 昨年は新型コロナウイルスにより経済が大きく低迷し、否応なしに社会の構造変革を促しました。いまだコロナ禍の渦中にありますが、遅れていたデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速し、産業界においては事業のポートフォリオトランスフォーメーション(PX)に向けた動きが加速し始めました。パンデミックをただじっと耐え忍ぶのではなく、これを契機にして自らを変革する気概が求められています。
 コロナ禍の経済低迷によってCO2の排出量は一時的に減少しましたが、残念ながら減少量は極めて限定的でパリ協定の枠近傍であり、地球温暖化の対策としてカーボンリサイクル含めた新たなイノベーション創出が欠かせないことが明らかとなりました。CO2を資源として活用する「循環炭素社会」の構築が必要です。菅義偉首相が所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、今年は官民合わせてその動きがより顕著となり、いわば「カーボンニュートラル元年」となるでしょう。
 解決すべき地球規模の課題は温暖化だけではありません。プラスチック廃棄物、水・食糧、さらには近い将来確実視されている二次電池のリサイクルなど、窒素、炭素を含めてすべての物質の地球規模での循環系を科学的根拠に基づいて構築することが喫緊の課題です。そしてその循環系により実現される持続性がもたらす社会的価値を数値で可視化し社会の納得性と受容性を得ていくことが、単なる効率と利益の指向とは異なる新しいステークホルダーズ資本主義を実現していくための重要な一歩となると考えます。
 これらの課題を解決するには、幅広い工学の知見が不可欠です。本アカデミーは工学の幅広い知識を有する専門家集団であり、多様な会員の皆様の英知を結集することで解決に向けた大きな貢献ができると確信しています。
 一方で2045年までにひょっとしたら到来すると言われているシンギュラリティーを見据えると、文理融合をより一層加速する必要もあるでしょう。また昨今のコロナ禍においては、科学と政治の在り方について度々注目が集まりました。残念なことに、日本では科学と政治の連携がうまく機能しているとは言い難く、政治家や国民の科学リテラシーの向上が必要であり、また科学者の政策リテラシー向上も不可欠です。本アカデミーでは昨年、政策共創推進委員会が新たに発足し、科学と政治の対話に向けた活動も始動したところで、大いに期待されるところです。
 DX、環境、パンデミック等々大変革の時代だからこそ、本アカデミーには政策提言の発信と社会実装の加速が求められています。まさに「人類の安寧とより良き生存のために、未来社会を工学する」ことがより一層必要とされていると言えるでしょう。
 会員の皆様のさらなるご健勝とご活躍を祈念し、新年のご挨拶といたします。

2021年 1月 1日

(公社)日本工学アカデミー 会長

小林 喜光