会長からのメッセージ

2019年 年頭のご挨拶

 明けましておめでとうございます。
 平成の最後の年になりました。平成を「失われた30年」と重ねるのは大胆かもしれませんが、わが国の様々な競争力指標は低下傾向が目立ちました。また東日本大震災に代表される未曾有の大災害に遭遇しました。グローバリズムが世界を席巻しましたが、昨今は自国主義などの反動が出始め、先行き不透明です。
 この間、日本の多くの製造業を例にとれば、効率化や顧客との連携による新技術の開発などの懸命な努力により業績を確保し、安定と継続を重視する日本型経営の長所を維持することが出来ました。ただしイノベーションへの取り組みは、日本経済への重要度を認識しつつも、ゆとりのない企業が多数を占めました。
 国の政策も短期的成果を強く求めるようになり、それが大学の研究や教育にも及び、研究者の育成に影響が出るようになりました。この流れに甘んじるとすれば、大学や教授の責任でもあります。
 朗報もあります。21世紀の声を聴いてからの20年、日本人のノーベル賞受賞者が続出しました。米国は別格としても、それに次ぐ受賞者数の英国と肩を並べる20年になったのです。これらの成果は、20世紀ないし昭和年間にスタートした研究に大きく依存しています。今後はどうでしょうか。ここ10年、15年に変貌した大学の雰囲気・環境の中で研究を始めた若手からは、独創的研究は出にくくなるという危惧が指摘されています。
 ノーベル賞はイノベーションを直接目的にした賞ではありませんが、科学系の3賞についていえば、画期的なイノベーションにつながった業績は多数あります。ノーベル賞の事例を含めて、研究への取り組みは、より広い分野のイノベーションの芽の創出に共通しているといえます。世界の先達の研究への姿勢を学ぶことは、これからのとくに大学における若手研究者育成にとって大切な視点です。
 「失われた30年」は、新たな目標を見出せなくなった時代でもあります。次の姿は何か、人類社会における役割は何か、は大きい課題です。とくに知の拠点である大学の役割、そしてアカデミーの役割は大きいといえます。
 危機感のある論調になってしまいましたが、日本工学アカデミーは、政府や各学会を超える立場で、様々な活動を行っています。その一環として、政策提言を積極的に進めています。そこでは単に文章を作るだけでなく、関連する政治家や団体、官庁の幹部等に説明するなどの活動を方針としています。
 日本工学アカデミーは、会員との連携に基づく組織です。節目の年に当たり、さらに何をなすべきか、などについて諸兄諸姉のご高見を賜りたく、切にお願い申し上げます。
 昨年10月末に、事務所を神田猿楽町に移転しました。狭いですが、会員の皆様にお立ち寄りいただけるスペースも設けました。
 本アカデミーの正会員数は、766名(2018年11月現在)です。2017年11月から66名増えました。産業界からの会員の比率は、この間17%から19%になりました。一方女性会員は6名の微増です。賛助会員は42社から48社に増加しています。
 会員各位のさらなるご健勝を祈念し、新年のご挨拶といたします。

2019年 1月 1日

(公社)日本工学アカデミー 会長

阿部 博之