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公益社団法人 日本工学アカデミー

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衆議院議員 伊佐進一先生へのインタビュー

日本工学アカデミー 政策共創推進委員会「次世代人材による国会議員インタビュー」
伊藤一秀(EAJ会員、九州大学総合理工学研究院)

2022年1月13日 中央が衆議院伊佐進一議員、左側 伊藤一秀会員、右側 永野博委員長(右写真 伊佐進一議員と伊藤一秀会員)

はじめに
2022年1月13日午後2時30分より、衆議院第一議員会館の伊佐進一衆議院議員東京事務所にて、伊佐進一先生にインタビューする機会を得た。本インタビューは、政策共創推進委員会における国会議員・立法府関係者と研究者・科学者の協働と交流を促進するための取り組みの一環であり、特に国会議員と研究者の両者による政策共創能力の向上に資する信頼関係構築・情報共有に関して意見交換することが主たる目的である。45分間という限られた時間設定であったことから、論点を2点に絞り、伊佐進一先生の意見と政策決定の現場を取り巻く状況を伺った。

 

論点1 政策立案に資する科学情報を提供可能な研究者のデータベース構築の可能性に関して
政策は国会において決定される。その政策立案の過程では、「米国がこう云っている」とか「EUの意向を鑑みれば」といった対外参照主義に従って、もしくは審議会に集められる(時には御用学者とも呼ばれる)専門家・研究者の中立的かつ科学的とされる判断によって、権威が調達される(こともある)。特に後者の場合、例えば現在進行形のCOVID-19対策のようなケースでは、科学的根拠に基づいた政策立案が非常に重要であり、国会議員 (もしくは行政に従事する官僚)が助言を求める専門家・研究者は「本物」であってほしい。
伊佐先生によれば、「専門家・研究者に助言を求める必要があると判断した際には、まずは関連府省庁に連絡し、人材関連情報の提供を求めることが一般的な手順」とのことであった。我が国の官僚機構は国内最大のコンサルである。関連府省庁へコンタクトして人材関連情報を共有する方法、迅速なレスポンスが必要な場合における最適解と思われるが、これは既に名の通った研究者もしくは各府省庁と深い関係を構築している研究者に継続して声が掛かるということであり、この場合、在野の(しかし有能な)研究者が政策立案にコミットできる可能性は非常に低い。
立法府(国会議員)とアカデミア(専門家・研究者)の人材マッチング、特に政策立案プロセスに本物の専門家・研究者の参加を促すために、例えば、国会調査関連部局に求められる課題に関して貢献出来る適切な研究者を紹介できる中立的な人材データベースを構築した場合の有効性、もしくは日本工学アカデミーが専門別にアカデミア人材リストを提供した場合の有効性に関して伊佐先生に助言を求めたところ、結局は「政治家と研究者の間の信頼関係がまず第一に重要であり、特に個人的な信頼関係の構築が基盤となるであろう」とのことであった。データベース上に研究者の専門領域とランクが示されており、例えば、松竹梅のランクが表示されていれば、「松」以外の研究者に声が掛かることはあり得ず、また、「松」ランクが単なる論文量産能力を示している場合もあり得る。国会議員は政策立案に責任を負い、また国民に対する説明責任がある。単なる権威の調達が目的であれば研究者の肩書きで事足りる場合もあるが、国民生活に大きな影響を与える政策に助言を求める相手は、「本物」の専門家・研究者である必要があり、この「本物」を明確に定義することは難しい。研究者は科学的判断に責任を持ち、国会議員は国民生活に直結する政策決定とその結果に責任を持つが、両者の責任は本質的に異なる。結局は、遠回りに見えても国会議員と研究者の個人的な信頼関係を地道に構築していくしか方策が無いことを、伊佐先生の助言から強く認識することとなった。

 

論点2 多様な視点での(若手)研究者支援に関して
我が国の国際競争力の観点で、大学や企業の研究開発能力の維持・向上の重要性は広く認知されており、これまでも多様な研究者支援が継続して実施されてきた。「選択と集中」のかけ声のもと、トップ1%(もしくは10%)の研究者を集中的に支援する施策は(本物の研究者や将来大化けする研究を正しく選別できているのであれば)一定の合理性があろう。財政逼迫と国民感情を鑑みればバラマキ型の研究者支援が困難であることは十分に理解できるが、市民生活に密着した成熟産業分野の基盤研究を継続していくこともまた重要であり、豊かな生活と国力維持のためには研究費配分に絶妙なバランスが求められているように思う。
この研究者支援の方法に関して、特に若手研究者・博士課程学生の支援方法に関して伊佐先生に意見を伺った。伊佐先生から、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「次世代研究者挑戦的研究プログラム」導入の際の裏話、当初は日本学術振興会(JSPS)特別研究員制度(DC1・DC2)の予算を拡充することで採用者数を増加させる案が議論されたこと、博士課程進学者増加に向けて各大学の責任の所在を明確にする必要性が議論されたこと、などを教えていただいた。
伊佐先生の指摘のとおり、大学側(もしくは研究者)は予算(基盤研究費の増額)や支援が必要だと主張はするものの、その費用対効果を定量的に事後評価し、その結果を国会議員と共有し、(納税者である)国民に説明する努力をしていない。少なくともJST「次世代研究者挑戦的研究プログラム」では、博士課程学生支援予算が各大学からの申請を審査した上で分配されたことから、博士課程学生が増加しない場合は、その責任は大学の能力不足にあるとの結論になる。博士課程に進学する学生を増やすためには生活費援助が必要であると主張し、仮に結果として成果が上がらない場合には、本当の原因は博士課程修了後のポストが不安定であるという理由にすり替える、という逃げは許されない状況にある。
伊佐先生からは、政策の審議過程において「博士課程学生の生活支援を充実させた場合、即ち予算を付ければ博士課程進学者が増えるのですよね」、「. . .ハイ」と云った大学関係者とのやり取りの一端を教えて頂いた。
事務負担と研究者の書類作成負担の両者を増加させずに有効な効果を得るためには、新たな制度を導入するよりも、既存の科研費やJSPS特別研究員の予算を拡充して採択率を上げることが効率的であるように思えるが、費用対効果の説明責任という点で新規の別枠の支援策を導入し、責任の所在を明確にするとの判断も十分に説得性があると理解し、納得した。この政策決定までのプロセスは、大学関係者全員が共有し、認識すべき大切な事項であると感じたが、こういった情報共有は、国会議員と研究者の個人的な信頼関係があって初めて可能となることを認識した。
また、伊佐先生との対話を通じて、イノベーションにはその基盤となる多様な既存技術の蓄積が必要であること、既存技術の新たな組み合わせこそが新たなアイデアや新技術となる、といった考え方を共有した。これは科研費で例えるならば、特別推進研究や基盤研究(S)の予算を増額することも大切であるが、その一方で、基盤研究(C)の採択率を10%程度上げることで研究者の裾野を支援することもまた大切であろう、という考え方と理解できる。どちらにしても、我々研究者には研究費の費用対効果を定量的に示し、説明する努力が求められている。

 

その他(国費留学生の支援について)
伊佐先生とお話し出来る折角の機会ということで、非常に個別案件であるものの、国費留学生の支援に関して相談する時間を頂いた。現下のコロナ禍で入国出来ない国費留学生は、日本国内に滞在していないということで、生活費としての奨学金が支給されていないという状況にある。現実には、学籍が発生しており日々オンラインでの勉学や研究活動に取り組んでいる。特に途上国出身者は日々の生活に困窮している学生も多いため、現地での生活維持のために深夜パートタイムで働きながら、日中は勉強・研究を続けるという過酷な環境にある者もいる。このような状況を少しでも改善する方策に関して、特に監督官庁との情報共有と検討を陳情したところ、伊佐先生にも留学生の置かれた環境を十分に理解いただいた。

 

対話を終えて
今回の伊佐先生との対話の実現は、永野博委員長が構築されてきた伊佐先生との個人的な信頼関係によるところが大である。政策共創推進委員会の目的は、この個人の努力によって培われた国会議員との信頼関係という貴重な資産を、組織レベルに拡張することにある(と理解した)。伊佐先生の情熱的でオープンマインドの姿勢に接し、研究者こそ積極的にアプローチする姿勢が大切であると実感した。在野の(しかし有能な)研究者が政策立案にコミットできない、のではなく、自ら説明責任を果たすべく行動することが研究者に求められているのであろう。
伊佐先生と対面でお話しした翌日には、伊佐先生より伊藤の携帯電話に直接連絡を頂き、国費留学生への奨学金支給に関する文部科学省の対応状況を教えて頂いた。「少なくとも文部科学省は我々現場の教員と同じ問題意識を有していること、入国出来ない国費留学生に対する支援の必要性を認識しているものの(お金の配分に対する最終決定権を有する)財務省との折衝で行き詰まっているという状況にあるとのこと」を行政システムの課題を含めて非常に丁寧に教えて頂いた。問題が簡単に解決することなど無いが、共感と熱意を持って迅速に行動し、問題点を明確化した上で現状で出来ることと出来ないことを真摯に説明する姿勢に非常に感銘を受けた。(その後、3月までにはすべての国費留学生が入国できるようになったとの連絡も受けた。)
今回の対話が、国会議員と研究者の対話を通じて、立法府側は研究者との共創による科学政策の立案、研究者側は立法府を活用したより良い研究環境・イノベーション環境の創出に向けた(組織レベルの)信頼関係醸成の端緒となればと願う。そのためには、継続的な交流の機会確保がまずは重要であろう。

 

後記
上述の報告文を政策共創推進委員会の先生方に提出したところ、伊佐先生の発言内容と伊藤の考えを述べた箇所の区別が不明確である、とのもっともなご指摘を頂き、改善した。通常のインタビュー記事であれば伊藤の質問事項と伊佐先生の回答・助言を順を追って整理すべきであり、また、不明確な記述は責任の所在も不明確にする危険性があるという主旨であることも良く理解した。
今回のインタビューを通じて、伊佐先生が強い使命感をもって我が国の科学技術政策に取り組んでいることを理解し、その実現には国会議員と研究者・科学者の信頼関係構築が本質的に重要であるとの考えに強く共感した。伊佐先生の言葉を契機とした共感と問題意識を書き記したものが、本稿である。本稿の内容に関する全責任は著者である伊藤にあることを最後に明記しておきたい。

2022年1月13日
衆議院第一議員会館にて

 

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