会長からのメッセージ
会長就任にあたって
6月6日に日本工学アカデミーの会長に就任いたしました。
EAJの会員、賛助会員の皆様には、新型コロナウィルス感染症流行の中、多くの事業を活発に進めていただき、EAJの活動にご尽力賜りました。とりわけ小林喜光前会長は、2期4年間にわたり、コロナ禍による想定外の事態を乗り越えてリーダーシップを発揮され、広範にわたるEAJの活動を牽引されました。小林前会長をはじめ、会長代理、副会長、理事、支部長、委員長、会員の皆様、賛助会員の方々に深く感謝申し上げます。また、歴代会長、諸先輩、関係者の皆様にも厚く御礼申し上げます。
幕末明治を先導した啓蒙家福澤諭吉は、科学技術が社会の統治形態のみならず人の「心情」までも変えてしまう時代になることを予期し、『民情一新』(明治12年)を著しました。同書の緒言に「人間社会ノ原動力ハ蒸気ニ在リト云フモ可ナリ」とあります。今であれば「デジタルに在りと云うも可なり」ということでしょう。20世紀末以来のデジタル革命は、蒸気機関に代表される18~19世紀の産業革命に匹敵する、社会と人心を変える原動力になっています。
デジタル革命だけではもちろんありません。日本は今や時代潮流の大波をアタマからかぶっています。戦後80年、平成元年生まれが35歳、米ソ冷戦と高度経済成長の時代は遠い過去の物語になりました。国際情勢の激変、自然災害の拡大、国内では少子化と過疎化、労働生産性の停滞と1人あたりGDPランキングの急降下、そして防衛・安全保障の課題・・・一所懸命働いてきたと思っていたのに、どうしてこんなことになったのでしょうか。この設問について、私たち一人一人が当事者意識をもって考えなければなりません。そのうえで、日本と世界に明るい社会をもたらす志とエネルギーを、改めて持たなければなりません。
EAJは2027年に創立40周年を迎えます。2024年3月には中国・四国支部設立に向けたキックオフも開催されました。工学と科学の多様な分野を代表する方々によって構成された組織であり、国際工学アカデミー連合の主要メンバーでもあるEAJの役割は、これからの時代にますます大きくなっていきます。
私は、1970年代の半ばから、一貫して情報科学・AI・認知科学の研究を行うとともに、大学の経営、研究助成機関の運営、国際組織の運営、シンクタンクの運営などに関わり、多くの科学技術政策、国の研究プロジェクト、民間企業の活動に関与してきました。これらの経験を活かし、微力ではありますが、これからのEAJのために精いっぱいの努力をしていきたいと存じます。
EAJの基本理念「人類の安寧とより良き生存のために、未来社会を工学する」に改めて思いを馳せつつ、世界の厳しい現実を直視し、混沌とした時代を乗り越える工学と科学の新たな在り方を求めて、ご一緒に挑戦していこうではありませんか。今後とも会員、賛助会員の皆様、関係者皆様のご指導ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
2024年 6月 6日
(公社)日本工学アカデミー 会長
安西 祐一郎