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公益社団法人 日本工学アカデミー

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衆議院議員 大野敬太郎先生へのインタビュー

日本工学アカデミー 政策共創推進委員会「次世代人材による国会議員インタビュー」
玉城 絵美(EAJ会員、琉球大学工学部教授、H2L, Inc. CEO)

2022年6月22日 中央が衆議院大野敬太郎議員、左側 永野博委員長、右側 玉城絵美会員(右写真 大野敬太郎議員と玉城絵美会員)

はじめに
2022年6月22日午後5時より、衆議院第一議員会館にて、大野敬太郎先生にインタビューする機会を得た。本インタビューは、政策共創推進委員会における国会議員・立法府関係者と研究者・科学者の協働と交流を促進するための取り組みの一環であり、特に国会議員と研究者の両者による政策共創能力の向上に資する信頼関係構築・情報共有に関して意見交換することが主たる目的である。
「科学技術イノベーションと産業化に至るまでの国の在り方」をテーマに論点を3つ置き、事前に用意した質問項目に対して、大野敬太郎先生のご意見や国の施策の現状を伺った。

 

論点1 科学技術イノベーションと安全保障
現在、Society5.0のサイバー空間とフィジカル空間の融合に重点を置いて、科学技術イノベーションが推進されている。国内の科学技術の重点課題は、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)をはじめとする専門委員会の場においても大きな決定がされているが、その他の重点課題の決定と推進はどのような仕組みによって行われているのだろうか。大野先生は、「一言でいえば、さまざまな仕組みということになってしまう」と前置きしつつも、CSTIでおおまかに科学技術のあり方が議論されていることや、科学技術・イノベーション基本計画で大きな方向性が決まっていることをご説明くださった。また、SIPやムーンショットといった明確なターゲットを定めているプログラムに言及しつつ、研究のターゲットはCSTIの他に文科省内でも決定されていることをご説明くださった。科学技術イノベーションの成果を社会実装していくことは当然重要であるが、一方で、科学技術力の向上には基礎研究力が不可欠である。大野先生も基礎研究力の重要性は重々認識しておられ、科研費や基盤経費などでしっかりと支えて、分厚い土台を築いていきたいとのお考えを示されていたことは、一研究者として大変心強く感じた。
私自身もイノベーション会議に参加する機会があるが、重点領域を決めていく中で多数候補が出た場合に、専門家同士の議論で決めて良いものか、諸外国のように政治的な介入があった方が良いのか、疑問に感じていた。大野先生にその疑問をぶつけてみたところ、両方あって然るべきで、両方のバランスが大事とのご意見をいただいた。たとえば、科学技術基本計画においても、当初はずっと基礎研究重視であったが、途中から社会実装を重視する方向性に変わり、現在はどちらも大切だという結論に至っているそうだ。では、基礎研究と社会実装のバランスは、どのくらいが最適なのだろうか。大野先生のお考えは、基礎研究の部分に関しては「何人の研究者を育てたいか」という国の意識がベースになるべきで、そこから初めて基盤経費が出てくるべきだ、とのことであった。現行の科学技術・イノベーション基本計画の中では、政府の研究開発投資の総額として、5年間で30兆円を目指すという目標を掲げている。これだけの金額を使う以上は、アウトカムの評価をしっかりと実施した上で国民に説明をする責任があるとお話しくださり、国としては投資的な視点も必要であることを認識できた。
続いて、Disruptive Innovation(破壊的なイノベーション)について大野先生のお考えを伺ったところ、利益が見込まれない領域か、利益が見込まれるとしても民間が手を出さない領域については、国が制度として実施するべきで、その上で民間の知見がもっと入りうるような領域を作っていかなければならないとのお考えを示された。すなわち、民間が手を出せないような領域に対して、国が投資を行うことで民間が参加できるような環境を作っていくことが必要だということである。国だけ民間だけ、ではなく、国と民間がそれぞれの役割を果たすことは、より多くの課題解決とより高度な社会発展に繋がるように思われる。民間への投資の基準に関しては、民間の介在によって社会がどう発展するかが重要であるが、必ずしも社会が発展しなければ投資しないわけではない、と「新しい資本主義」の考え方との類似性を指摘しつつお話しくださった。ノーベル平和賞を受賞されたムハマド・ユヌス先生のお話を思い起こすような内容で、大変興味深かった。国と民間の連携の理想的な形について、大野先生は、課題と制約を共有することが重要であるとお話しくださった。
課題に関しては、広く知られているSDGsもあるのでイメージしやすいが、制約とはどういった意味なのだろうか。この問いに対し、大野先生は、一般にイメージできるような「これをやりたいが、あれがないからできない」といった制約だけでなく、その制約が生じている背景も含めて共有するべきだとご説明くださった。課題と制約を共有することによって、お互いの立場の理解が深まり、物事がうまく進めやすくなると大野先生は考えておられ、「その制約の背景にあるルールがいけないんだったら我々が規制改革をやる」とのお言葉は大変心強く感じられた。

 

論点2 スタートアップエコシステム
近年のスタートアップエコシステムは、特に都心部では大きく変わったように見受けられる。投資が活発化し、比較的短期でサービスインに至る研究成果への投資が増えてきた一方で、GX、ワクチンや宇宙開発など、Seedから市場投入まで大型投資が必要な技術への投資の潤滑化には、まだ時間がかかりそうに思われる。投資がまわりつづけるスタートアップのエコシステムの構築には、どのような要素が必要なのだろうか。
大野先生は、社会課題解決を目指す研究開発への支援策は何かあるべきだと考えておられ、支援策の一つとしてソーシャル・インパクト・ボンドを挙げられた。ソーシャル・インパクト・ボンドとは、行政が民間に業務を委託する際の手法である。まず、研究開発を実施する民間が明確な目標やビジネスモデルなどを設定し、その企業に対して資金提供者が投資を行う。次に、行政によって任命された第三者機関が、民間の定めた目標やビジネスモデルについて評価を行う。そして、第三者機関による評価内容に応じて、行政が資金提供者に対して資金を出すという、行政から見たら成果報酬型とも言える仕組みである。その他にも、長期的な支援策として、寄附文化の醸成や、「あたたかい資金」と呼ばれる、政府が補助金を出すのではなく購入することで契約ベースにする方策などをご説明くださった。スタートアップエコシステムの醸成の中で、スタートアップをユニコーンにするためのアクセラレータープログラムが実施されているが、ユニコーン化を見据える多くのスタートアップは、税金、資金調達、人材などの面で海外進出を視野に入れている場合がほとんどである。大野先生はこの現状に危機感を抱いておられ、あらゆる施策を講じていかなければならないと感じておられるようだ。
日本は、海外のスタートアップが成長しやすい地域に比べると、大学や企業とスタートアップ間での人材流動性が低く、特に、スタートアップから大企業への流動が少ないのが現状である。海外では、わざとスタートアップに行って少しだけ成功体験を得た後に、突然、企業の部長職に就くといったキャリアプランを描いている学生が多い。専門性の違う分野への挑戦は難しいところがあるのかもしれないが、人材流動性を高めることによって生産性の向上を目指すのであれば、国はどのような支援をしたら良いのだろうか。大野先生は、大企業の人材がスタートアップに行って、そこでスタートアップの一員として業務を行う、すなわち出向のような制度を作りたいと熱く語ってくださった。大企業の人材がスタートアップに行くことは、そのスタートアップにとって、大企業にいるような人材が育つ、人脈が広がる、などのメリットがあると考えられる。一方、大企業にとっても、スタートアップに行った人材が数々の貴重な経験を持って戻ってくるというメリットがある。スタートアップに行った人材の給与は大企業側が負担し、スタートアップ側は無償あるいは逆にお金がもらえるという制度であれば理想的で、さらに、人材を行かせた大企業に対してはコーポレートガバナンス上で評価し、評価によるポイントが基準以上あれば調達で有利になるといった仕組みを構築したいとのお考えであった。大野先生のお考えが実現し、人材流動性が向上することによって、各企業が最適人材を確保しやすくなることを願うばかりである。

 

論点3 研究成果の産業化に必要な政策
研究成果の産業化について、JSTやNEDOをはじめ、国は大きな力を入れているが、産業化にあたってはいくつかの障壁があるように思われる。障壁の例としては、規制緩和や規制構築といった法整備や国際標準化が挙げられるが、大野先生は特にどの点に注目されているのだろうか。法整備と国際標準化のどちらも注目している、というのが大野先生のご回答であり、特に知財戦略の法整備と国際標準化については、非常に重要なテーマとして長らく考えておられるとのことであった。一方で、研究成果の産業化のためには、研究から産業が一緒くたになってファンディングエージェンシーとして回していけるような仕組みが必要だとも考えておられ、一つの課題であるとお話しくださった。ファンディングエージェンシーだからこそ見ることができる政府の課題あるいは民間の課題について、それらを解決するためのフィードバックをファンディングエージェンシーが政府に働きかけることによって、特に法整備についてもっと潤滑に進むようになるとのお考えであった。
研究成果を産業化するにあたっては、特に研究者の海外流出が懸念されており、私が指導している学生も優秀であればあるほど新卒で海外に行ってしまっているのが現状である。国が支援した研究の成果を守るため、また国民の脅威とならないため、どのような政策が今後必要となってくるのだろうか。大野先生は、流出の規制を基本的には嫌っておられるので、優秀な人材が海外に行かないよう、日本の環境を魅力的なものにしていくしかないとご回答くださった。優秀な人材の流出は仕方がないと思っておられる一方で、技術流出は厳格化するべきとのお考えで、技術流出の規制に関する法律である外為法をご紹介くださった。外為法をより強化する方向で進んでおり、特に安全保障に関わる可能性のある技術については、より厳格に運用していく方向であるようだ。また、技術流出を防ぐために、日本に入ってくる外国人留学生や外国人研究者について、バックグラウンドの明確化と透明性を確保することも大事だとお話しくださった。今ある知識の流出だけでなく、外から知識を奪われることも防ぐ必要があるのだ。技術流出防止については、世界中で議論が盛り上がっており、先日のG7の科学技術大臣会合でも国際的な枠組みが示されたそうだ。技術流出はずっと気になっていた問題であったので、そういった動きがあることに安心した。

 

最後に
限られた時間であったにもかかわらず、大野先生には、事前に用意していたすべての質問にご対応いただきました。この場をお借りして、心より御礼申し上げます。

2022年6月22日
衆議院第一議員会館にて

 

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