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公益社団法人 日本工学アカデミー

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衆議院議員 大串正樹先生へのインタビュー

日本工学アカデミー 政策共創推進委員会「次世代人材による国会議員インタビュー」
宮地秀至(立命館大学情報理工学部助教)

中央が大串正樹衆議院議員、左側 宮地秀至立命館大学情報理工学部助教、右側 永野博委員長/右写真 大串正樹議員と宮地秀至助教

はじめに
2023年10月5日16:00より、衆議院第一議員会館にて、大串正樹先生にインタビューする機会を得ました。本インタビューは、政策共創推進委員会における国会議員・立法府関係者と研究者・科学者の協働と交流を促進するための取り組みの一環であり、特に国会議員と研究者の両者による政策共創能力の向上に資する信頼関係構築・情報共有に関して意見交換することが主たる目的です。事前に用意した質問項目に対して、大串正樹先生のご意見や国の施策の現状を伺いました。当初16:00-17:00の間の対談時間でしたが、大串先生がお忙しい中時間を空けてくださり、16:00-17:30と1時間30分も対談を行うことができました。多くの配慮をしてくださり、全ての質問に答えてくださった大串先生には、この場をお借りして感謝申し上げます。

 

質問1.

「大串先生は、東北大学で修士を取得された後、一度就職して、時間を経た後に、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)で博士後期課程を取得しようと思ったきっかけはどういったことだったのでしょうか?」
大串先生:松下政経塾にいた時、政策過程に興味を持ちました。その時、野中郁次郎先生(一橋大学名誉教授)と意気投合し、野中先生から「JAISTで知識科学研究科を作るから来ないか?これからの政治家は博士号を持っていないとダメだぞ」と誘われ、自身としても将来政治家を目指すのであれば教育や社会保障を研究したいと思い、博士の学位は教育政策で取り、助教の間は医療マネジメントの研究などを行い、一貫して知識論と政策過程論に関わってきました。

 

質問2.

「現在AIが一辺倒になる傾向がありますが、AIのシステムを実行するためには、セキュリティや暗号が重要となります。つまりAIだけでなく、セキュリティや暗号に政府として投資することは重要なことだと思いますが、どう思われますか?」
大串先生:一時期ブロックチェーンが大流行りした時があって、ブロックチェーンが今の技術にとって代わるかと思っていたら、まだセキュリティ面で問題が出てきて、「セキュリティはいたちごっこで、常に高めていかないといけない分野なのだな」と思いました。一方で政策としてセキュリティを考えたときに、ITリテラシーから入らないと、どんなに強固なセキュリティを導入しても、使用する人の知識がないと、うまくシステムが実行できないと思います。なので、政策としても強固なセキュリティの導入とITリテラシー向上の両方を行わないといけないと思います。ただ、web3.0がどのように実態経済と結びつくのかはこれからの課題です。一方で、生成AIが様々な場面で利用され始めています。また、国としても、ブームに浮かれるということは良くないと思いますが、その原因は、バランスよく知識を持っていないからではないかと思います。例えば電気自動車では、多くの人が蓄電池のお話をされます。確かに蓄電池も大事なのですが、電力をコントロールするインバータの技術も日本は長けているので、制御技術にもフォーカスした方がいいと思いますが、なかなか全員飛びついてくれないですね。
宮地:大串先生や他の政治家の方もAIだけでなく、セキュリティに投資することの重要性を理解しているのですが、我々研究者が、セキュリティの汎用性をしっかりと伝えることができていないのかなと思いました。例えば、web3.0の中で、2者間の安全性を繋げるためにゼロ知識証明という技術があり、ゼロ知識証明は自身の情報を秘匿できるので、とても重要なのですが、地味な技術なのでなかなか伝わりにくい部分もあります。このような技術の重要性をしっかりと伝えて行きたいと思いました。

 

質問3.

「研究者の中で起業する研究者を政府としては増やしたいでしょうか?つまり、研究者の中で起業する人材を増やすためにはどのようなことが必要でしょうか?」
大串先生:両論あると思います。その分野でしっかり研究することが重要だと考える方もいらっしゃいますが、様々なことを実行しながら新しいアイディアが生まれる場合もあります。分野にもよる部分もあります。ただ、研究開発投資だと、政府は選択と集中という形で行なっていますが、様々なことをできる研究者もいます。ですので、できる人に資金を集中した方がいいのかなと思います。しかし、大学の教員は研究以外に講義もあり、若手だと委員会などの雑務も任される場合もあり、お金より時間が欲しいということが現実的に起こると思います。なので、研究にまつわる付帯業務をスタッフでサポートする体制を整えないと、研究者が研究に専念できないという良くない状況が起こると思います。また、国の仕事をしていて感じるのは、皆さん工学と政策の話はよくするのですが、「学問的には正しいが事業化するには課題が多い」ということです。実際に産業に応用できる技術が重要だと思うのですが、ここを日本が軽く見続けてきていて、なんとかしないといけない。アカデミアと産業界を橋渡しすることが重要なのかと思います。産学連携という言葉はあるのですが、両方に通じたアクターを積極的に育成していないですし、アカデミアの人と産業の人をしっかりと繋げることが重要だと思います。
宮地:確かに、うまく橋渡しするアクターはいないですね。

 

質問4.

「政府として、より日本の力を発展させるためにはどうしたらいいでしょうか?博士を増やすことでしょうか?」
大串先生: 政治家で、博士号を持つ議員が数えるほどしかおらず、博士号を持っていても大学での教員経験や、論文指導を行ったことがある人がほとんど皆無です。なので、文科省の教育政策では、初等中等教育に重点が置かれ、高等教育が手薄になっております。私はこの問題点を変えたいと思っております。特に、アカデミアで国際学会での発表や、査読付き論文を通した経験がほとんどない政治家ばかりなので、日本のアカデミアが世界レベルまでいくということが難しくなるかもしれません。
宮地:確かにおっしゃる通りですね。今の日本では、博士号取得者が少ないです。例えば博士課程の学生に生活費を支援することも大切だと思いますがどう思われますか?
大串先生:博士課程を増やすためには、雇用政策の問題を解決しないといけないと思います。博士課程を取ったという付加価値を社会に還元するために、博士課程を取った方の給料をあげる環境を作らないといけない。しかし日本では、博士の価値をほとんど評価してくれません。私も知識科学で博士号を取りましたが、その知識を国会で議論する機会がほとんどないのです。知識に対するリスペクトがないことが問題点だと思います。
宮地:おっしゃる通りだと思います。この問題はどうしたら解決できるでしょうか?
大串先生:すぐに状況は変わらないと思うので、雇用政策をきっちり作るべきです。例えば副業を推進することで、様々な場面で自分の価値を表現できる場面を作ることが重要かと思います。人材難で専門性が不足している時代だからこそ、逆に一人一人が、様々な場面で活躍できる雇用政策をしっかり作るべきだと思います。

 

質問5.

「政府の見解として、現在の日本の研究者の給料は高いでしょうか?それともちょうど適当でしょうか?」
大串先生:アカデミアというより技術者の給料は倍くらいにしたほうがいいとも思います。日本では、理系も文系も関係なく一括採用で給料も昇進も同じなのですが、明らかに技術系は、他の人が真似できない技術を持っているので、そこをきちんと評価してあげないといけないと思います。例えば、日本の技術者が韓国や中国に高い給料でヘッドハンティングされて、日本国外に流出すれば、技術も移転されますよね。人材の流出を抑えるくらい日本は技術者をもっと大事にしないといけないと思います。これが政治家になった一つのきっかけです。
宮地:これは研究者も含めてですか?
大串先生:はい、研究者も含めてです。

 

質問6.

「政府として、例えばインバータやゼロ知識証明などの基礎的研究を評価する大まかな評価軸はあるでしょうか?」
大串先生:国はブームに飛びつくということがあるので、評価する軸はなかなかないですね。また文科省では、インバータなどの基礎研究の評価はアカデミアに委ねています。

 

質問7.

「自分は多くのいい研究を行い、多くの国際会議に発表したいと思っておりますが、自身の割り当てられた研究費以上の国際会議に出すことは難しいです。国が支援する、国際会議論文が通った際に使用できる旅費を負担するための研究費『研究力育成プロジェクト』というようなものを作ることは可能でしょうか?」
大串先生:国際会議に参加して海外の研究者と議論をすることが重要なのですが、そこの意識が政策的にないので今のままでは難しいですね。なぜなら学会という概念が理解されていないからです。例えば、地方大学で国際会議を主催するために助成しましょうという風にしても、学会という概念を政府は見出していないですね。少ないコストでいい成果が出ると思うのですが、国際会議に助成するという価値をまだ分かっている政治家の方は少ないです。国会議員になって思うのは、アカデミアの価値や意味を共有できないところが一番しんどいですね。その割にイノベーションなどで経済成長が進むのでは?と多くの方がおっしゃるのですが、イノベーションを起こすためには、下地や環境が必要で、その環境を整えることが重要だということを言っても伝わらないことが多いですね。

 

質問8.

「研究の多様性を実現するために、東京の一極集中ではなく、他の都市部でもいい研究ができるような環境を整えてほしいと考えているのですが、どう思われますか?」
大串先生:一極集中をどう解消するかはずっと政府が取り組んでいる重たいテーマなのですが、ことごとくうまくいっていないですね。東京に仕事が集中しているし、文化芸術も集まっているし、食べ物も集まっているし、という様々な理由がおそらくあると思います。

 

質問9.

「政府の方から見て、今の日本の短所と今の日本の長所はなんでしょうか?」
大串先生:昔は、日本は開発力があったと思いますね。しかし今は、様々なスタンダードに合わせるようになって、力が落ちつつあるかなと思います。分野によっては、力を発揮しているとは思いますが、全般的に大衆に迎合している気がしますね。また、地味だけど良いものを評価できなくなっていると思います。ここが日本の短所だと思いますね。しかし、きちんと研究や技術を積み重ねている方がいらっしゃるのも事実で、そういう方がいてくれている間はまだ大丈夫かなと。そういう方にスポットが当たるような政治をやらないといけないと思います。

 

質問10.

「10兆円大学ファンドでは、東北大学が認定候補第一号に選ばれました。東北大学が採択された決定的な理由はなんでしょうか?」
大串先生:東北大学では、ナノテラスという研究施設があり、ナノテラスなどを見ていると、東北大学では、世界中のトップレベルの研究者を集めて研究しようという雰囲気が出来上がっていますし、資金の集め方や、大学の特色の出し方など様々な分野で東北大学が優っていたと思いますね。

 

質問11.

「大串先生にとって、衆議院議員の大変なこと、一方でやりがい(嬉しいこと)はなんでしょうか?」
大串先生:やりがいはやはり、仕組みを作れることですね。作った仕組みが人を助けたり、喜んでもらったり、多くの人の命が救われることもある、ということが議員としてのやりがいですね。ただ、必ずしもいいことが派手ではないですよね。地味なことほどいいことって結構あるのですが、地味なことだけやっている限りは、目立たないですし、選挙で評価されなければ終わってしまいますし。腰を据えて大事なことをきっちりやりたいなあというのはあるのですが、今の政治風土はそれが評価されるわけではないですね。やりがいと大変さが表裏一体というところです。

 

質問12.

「大串先生の今の目標と長期的な目標はなんでしょうか?」
大串先生:今の目標は、雇用政策をきちんと政策にしたいなあと思います。今の日本の雇用政策は、厚生労働省が担当しているのですが、雇用は企業にとってこういう人材が欲しいというニーズがあると思います。つまり、産業界のニーズと雇用制度、教育の制度はきちんと連携していないと良くない。この制度を作りたいですね。海外に比べると、能力が評価されにくい雇用制度なので、個人の能力をどう上げるか、その能力が社会できちんと発揮されること、それがシステムとしてきちんと報われる社会にする、ということが最終的に行いたいことですね。

 

感想
大串先生と対談させて頂き、大串先生が日本の教育や産業の将来について深く考えていることが分かりました。お話の例えで、電力をコントロールするインバータの技術の例えがあったり、量子アニーリングの話があったり、様々な技術に造詣が深いと思いました。また、大串先生が日本のアカデミアの研究者や技術者にいかにスポットを当てられるかと考えていることも分かり、自分もしっかり自身の研究の重要性を分かるようにしっかり研究し、産業界に繋げられるようにしたいと思いました。質問11で、大串先生が「地味だけど重要な仕組みを作りたいがなかなか目立つことができないのでやることが難しい」というお話がありましたが、その派手ではない仕組みの中で私自身が大串先生を手伝えることがあれば、手伝わせて頂きたいと思いました。

最後に、限られた時間であったにもかかわらず、大串先生には、事前に用意していた全ての質問にご対応頂きました。さらに、衆議院議員会館にて対談を行うという貴重な経験を用意してくださった、白石寛明秘書、大阪大学関谷毅先生、EAJ永野博先生にこの場をお借りして、心より御礼申し上げます。

2023年10月5日
衆議院第一議員会館にて

 

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