皆さん、明けましておめでとうございます。
日本工学アカデミーが主催しましたCAETS 2007TOKYOの題目「環境と持続的成長」は、今や正に人類の生き残りの基本課題だと広く認識されるようになりました。地球環境では、昨年末COP15で難航の末やっと全人類による対応の議論が行われ、今年夫々の目標が決まるかどうかという段階になりました。持続的成長では、100年に一度の世界同時不況から如何に立ち直るかで全世界は懸命に努力中です。特に日本では、新政権が支出の仕分けや収入増を図る施策に追われており、喫緊の国際競争力強化やイノベーション推進については、これから議論という状況であります。このような内外の厳しい環境下にあって日本工学アカデミーの使命は、社会に明るい未来の希望を与える提言をすることだと思います。
昨年8月の政権交代以来、工学アカデミーを取り巻く環境も大きく変化しました。最初は、総理も副総理も、また官房長官も文部科学大臣も理工系の出身ということで、科学技術関係者にとっては追い風の時代が到来するのではないかと期待されました。しかしその後、補正予算や事業仕分けで、科学技術への理解に欠ける評価が報じられるに及んで、当初の期待は大いに裏切られたとの感じが人々の間に走りました。事業仕分けの公開的な方法自体は革新的だという評価もありますが、長期的な視点で波及効果も含めた専門的判断が必要な科学技術予算を、高度な専門知識を持たない人々による短時間の公開審査に委ねたことから、多くの人々が国の将来に不安を感じたようです。日本工学アカデミーの野依会員をはじめノーベル賞受賞者の方々が総理に率直に諫言されたことは記憶に新しいところであります。
このような情勢を受けて、日本工学アカデミーの2010年度の目標は、2009年の活動と実績を継承して、1)会員が同じ価値観をもって有意義な活動を展開すること、2) CAETS、日中韓、日米、日豪、日英、日仏、などの多国間、二国間の国際活動を効率的に推進し、これらの成果を利用すること、3)財政状態を改善し、事務能力を強化すること、の三項目であります。これらの目標の達成には、会員の皆様方が、賛助会員、新政府や関連機関との効果的な接触を推進していくことが是非とも必要であります。
日本工学アカデミーは、これまで政治とは間隔を置いてきましたが、本年は危機感をもって新政権との対話を模索していくべきと考えています。環境については、コペンハーゲン合意の内容を分析して、この結果を如何にプラスに転じることが出来るかの提言が必要でしょう。科学技術政策については、国民・政治家・官僚すべての人々の教育・思考・実行への支援が必要と思います。各種委員会やその中のタスクフォース、作業部会などにおいて直接活躍される会員の方々は勿論ですが、そうでない会員も全員が問題意識を共有し、アカデミーの活動を推進していただくことを期待しています。日本工学アカデミーが持続的にシンクタンクの役割を果たす体制が取れるかどうかが日本の将来を左右するものと思います。
会員の皆様方の、昨年中の献身的なご努力に厚く感謝すると共に、本年も引き続き一層のご理解とご協力をお願いして年頭のご挨拶といたします。
2010年 1月14日
(社)日本工学アカデミー 会長
中原 恒雄