小林鷹之 衆議院議員へのインタビュー
日本工学アカデミー 政策共創推進委員会「次世代人材による国会議員インタビュー」
小野悠(豊橋技術科学大学大学院工学研究科准教授)

2025年3月3日、衆議院第一議員会館内の小林鷹之衆議院議員東京事務所にて、小林議員にインタビューする機会をいただいた。本インタビューは、日本工学アカデミー政策共創推進委員会の取り組みの一環として実施されたもので、国会議員と研究者との協働や交流を促進し、両者の政策共創力の向上に資する信頼関係の構築と情報共有を目的としている。
1. イノベーションの推進について
筆者(以下略):小林先生は、日本が世界をリードするにはイノベーションが重要だとおっしゃっています。現在、科学や学術には経済的価値の創出が期待されていますが、本来イノベーションには多様な価値があります。こうした広義のイノベーションを推進する上で、アカデミアにはどのような役割が求められるでしょうか。また、それを支えるためにはどのような政策が必要だとお考えですか。
小林議員:イノベーションの起こし方に明確な答えがあるわけではありません。私がアカデミアの皆さんに特に期待しているのは基礎研究です。もちろん応用研究も社会にとって重要ですが、アカデミアの本質的な強みは、中長期的な視野に立った基礎研究にあります。時間をかけて蓄積された知が、将来的に大きな社会的・技術的インパクトを生む可能性があるからです。
一人ひとりの研究者が、それぞれの問題意識に基づいて研究に取り組んでおられるとは思いますが、私が特に重視しているのは、「自分の研究が将来どのように社会に貢献し得るのか」という視点を常に持っていてほしいということです。研究を社会にどう実装するかを意識しながら、柔軟な発想で取り組んでいただきたいと思います。
加えて私は、理系・文系を問わず「リベラルアーツ」を徹底的に学ぶべきだと思っています。理系・文系に関係なく、自らの専門を深めることは当然大切ですが、不確実性の高い社会で活躍するには、自分の頭で考え、判断し、行動できる人間力が必要です。たとえば、物理学の博士号を持っていても、「物理しか分かりません」という人材では今の社会では通用しにくくなっていると思います。深い専門性とともに、物事の本質を見抜く力や価値観を育むことが、本来のPh.D.、ドクター・オブ・フィロソフィーの本質だと思います。
一昨年ワシントンで、ジョンズ・ホプキンス大学のスタインバーグ学長(元・米国務副長官)と話した際、彼が「これからの時代に必要なのはテクノロジーリテラシーだ」と言っていたのが印象的でした。文系でもある程度のテクノロジー理解が求められるし、理系でも社会や政策の理解が必要です。自分の専門がどう社会に活かされるか、常にその視点を持つことが大切だと思います。
一人ひとりの研究者が、それぞれの問題意識に基づいて研究に取り組んでおられるとは思いますが、私が特に重視しているのは、「自分の研究が将来どのように社会に貢献し得るのか」という視点を常に持っていてほしいということです。研究を社会にどう実装するかを意識しながら、柔軟な発想で取り組んでいただきたいと思います。
加えて私は、理系・文系を問わず「リベラルアーツ」を徹底的に学ぶべきだと思っています。理系・文系に関係なく、自らの専門を深めることは当然大切ですが、不確実性の高い社会で活躍するには、自分の頭で考え、判断し、行動できる人間力が必要です。たとえば、物理学の博士号を持っていても、「物理しか分かりません」という人材では今の社会では通用しにくくなっていると思います。深い専門性とともに、物事の本質を見抜く力や価値観を育むことが、本来のPh.D.、ドクター・オブ・フィロソフィーの本質だと思います。
一昨年ワシントンで、ジョンズ・ホプキンス大学のスタインバーグ学長(元・米国務副長官)と話した際、彼が「これからの時代に必要なのはテクノロジーリテラシーだ」と言っていたのが印象的でした。文系でもある程度のテクノロジー理解が求められるし、理系でも社会や政策の理解が必要です。自分の専門がどう社会に活かされるか、常にその視点を持つことが大切だと思います。
―― 伝統技能について伺います。高峰譲吉博士のように、地方の伝統技術を科学や社会に応用した例があります。こうした伝統技術をイノベーションと結びつけて発展させることは、日本の科学技術を世界に発信する上でも重要だと考えますが、現状では「保全」に重きが置かれています。これらを科学技術の視点から活用・発展させる支援策は可能だとお考えでしょうか。
小林議員:伝統技能を「保全するもの」とだけ捉えるのではなく、「新たな形で活かせるのではないか」という発想こそが重要です。現場からそうしたアイデアや取り組みが生まれた際に、規制などの障害がある場合は、国として必要に応じて、行政の縦割りを超えた連携や、法改正や既存の規制の見直し等の柔軟な対応をしていく。政治もまた、そうした取り組みを支える役割を果たすべきだと考えています。
2. 大学に求められる教育の役割について
―― 社会の複雑化・高度化が進む一方で、人口減少により地域の担い手が減少し、知識や技術の継承が困難になっています。また、企業からは、社員を海外に留学させる余裕がなくなってきているという声も聞かれます。小林先生は大蔵省在職中にハーバード大学へ留学されたご経験をお持ちですが、現在の行政や政治の現場では、専門性と広い視野を持った人材の育成はどのように行われているのでしょうか。また、このような時代において、大学の教育に求められる役割について、どのようにお考えでしょうか。
小林議員:ご指摘の通り、今の行政や政治の現場でも、専門性と広い視野を持つ人材の育成は大きな課題です。行政や政治の教育システムが十分かと言われると、課題が多いと思います。ただ一つ言えるのは、私は文系出身立場ではありますが、テクノロジーが全く分からないようでは、これからの社会では行政官も政治家も通用しないと思います。すべてを深く理解するのは難しいですが、最低限、どんな技術がどんなインパクトを持ちうるか、それが経済や安全保障にどう関係するのか、とにかく学び続ける必要があります。
こうした観点からも、大学が果たすべき役割は非常に大きいと思っています。ただ、現在の日本の大学が本当にその役割を果たしているかというと、まだまだ不十分です。自戒も込めて言えば、日本の大学教育はもっと厳しくすべきだと思います。入学がゴールではなく、卒業するまでに徹底して学ばせることが重要です。昼夜を問わず必死に勉強する他国の大学生の姿を目の当たりにし、また留学している後輩達の話しを聞くにつれ、今のままだと、日本の将来が危ういと感じています。これを避けるためにも、日本の大学の教育システムは抜本的に改革すべきだと考えています。
こうした観点からも、大学が果たすべき役割は非常に大きいと思っています。ただ、現在の日本の大学が本当にその役割を果たしているかというと、まだまだ不十分です。自戒も込めて言えば、日本の大学教育はもっと厳しくすべきだと思います。入学がゴールではなく、卒業するまでに徹底して学ばせることが重要です。昼夜を問わず必死に勉強する他国の大学生の姿を目の当たりにし、また留学している後輩達の話しを聞くにつれ、今のままだと、日本の将来が危ういと感じています。これを避けるためにも、日本の大学の教育システムは抜本的に改革すべきだと考えています。
3. 研究時間の確保について
―― 研究者にとって、研究時間の確保が大きな課題となっています。国立大学法人化以降、教育や管理業務が増え、技術・事務職員は減少し、競争的資金の複雑化も進んでいます。研究に集中できないこの状況について、どのようにお考えですか。
小林議員:研究者にとって必要なのは、あるテーマに対して徹底的に探求する意欲と発想力だと思いますが、個々の力以外で必要なのは、「時間」と「お金」だと思います。基礎研究がすぐにイノベーションにつながるとは限りませんが、基礎研究なしにイノベーションは生まれません。だからこそ、大学の教育や研究を支える基盤的な経費を、もっとしっかり確保する必要があると思っています。現在の補助金制度は、単年度・少額の予算をばらまく形になっていて、しかも申請や管理の手間がかかりすぎている。これでは本末転倒です。今後は、大学に一定規模のまとまった資金を提供し、裁量を持って研究に集中してもらう仕組みが必要です。具体的な方法としては、基金や教育国債など様々な選択肢が考えられます。そうすれば、事務的な負担も軽減され、研究に集中できる環境が整うはずです。
4. 研究の評価について
―― 現在、科学技術政策では、研究力を測るKPIとして論文数やトップジャーナル掲載数が使われています。しかし論文数偏重の指標は世界的に疑問視されていますし、研究者個人の過度な競争を招いているとも感じます。この点についてどうお考えですか。
小林議員:論文数だけに偏ったKPIは見直すべきだと思います。財務省をはじめとする財政当局には、納税者への説明責任があるため、短期的かつ客観的に成果を示しやすい指標を重視したくなるのは理解できます。しかし、そうした指標だけに縛られていては、日本の研究力の向上は望めません。研究には、失敗や無駄に見えるものも含めて、一定の自由と余白が必要です。むしろ、そうした中からこそイノベーションが生まれてくると思うのです。社会全体がこの点を理解するようになれば、財政当局の考え方も変わると思います。一方、研究者自身にも意識改革が必要です。専門性を高めると同時に自分の研究が将来、社会にどのように役立つのかを想像しながら取り組んでいただきたいですし、論文数を増やすための研究や、国や民間からの研究費をもらうための目先の成果を狙った研究はやめた方がいい。それぞれの立場で意識を変えていく必要があります。
少し話がそれますが、日本の大学では中国人の留学生や研究者への依存度が大きく、彼らのハングリー精神や努力によって研究成果が上がっているのは事実です。大学の先生方からも「中国人研究者がいないと研究室が成り立たない」と聞きます。しかし、その技術や知識が将来的に必ずしも日本社会で活されるとは限らないことなど、課題が多いと思います。こうした現状も含め、研究評価の仕組み全体を見直す必要があります。論文数だけでなく、例えば企業の視点を取り入れることも考えられます。企業が「この研究は将来役に立つかもしれない」と評価すれば、共同研究や資金提供につながります。そこから特許や実際のイノベーションに結びつけば、それも一つの指標になると思います。
少し話がそれますが、日本の大学では中国人の留学生や研究者への依存度が大きく、彼らのハングリー精神や努力によって研究成果が上がっているのは事実です。大学の先生方からも「中国人研究者がいないと研究室が成り立たない」と聞きます。しかし、その技術や知識が将来的に必ずしも日本社会で活されるとは限らないことなど、課題が多いと思います。こうした現状も含め、研究評価の仕組み全体を見直す必要があります。論文数だけでなく、例えば企業の視点を取り入れることも考えられます。企業が「この研究は将来役に立つかもしれない」と評価すれば、共同研究や資金提供につながります。そこから特許や実際のイノベーションに結びつけば、それも一つの指標になると思います。
5. 地域の自律的発展と大学の役割について
―― 小林先生は、地方への投資拡大と地域の自律的発展を提唱されています。イノベーションの観点から、特定の大学に資源を集中すべきか、全国の大学がそれぞれ役割を果たす体制を整えるべきか、どうお考えですか。
小林議員:私はまず、研究や教育にはもっと投資すべきだと考えています。ただし予算は無限ではないので、限られたリソースをどう活用するかという点では、大学数は多すぎると思います。教育は競争に馴染みにくい分野ですが、質のばらつきが大きすぎるのは問題で、適正な規模への見直しは必要です。
その上で、地方大学の存在は極めて重要です。東京一極集中には限界があり、地方にこそ産業やイノベーションの拠点をつくるべきです。たとえば熊本や北海道での半導体関連の取り組みのように、各地域が産業の柱を持ち、そこに大学・企業・自治体が連携する形で、国がビジョンを示しつつ進めるべきです。地方で育った人が、東京や大阪に行かずとも、地元で教育を受け、働き、生活できる仕組みを整える。そのためにも、地方の大学や高専は重要な拠点になります。大学は単に研究機関ではなく、地域の暮らしや経済と直結する存在であるべきです。
その上で、地方大学の存在は極めて重要です。東京一極集中には限界があり、地方にこそ産業やイノベーションの拠点をつくるべきです。たとえば熊本や北海道での半導体関連の取り組みのように、各地域が産業の柱を持ち、そこに大学・企業・自治体が連携する形で、国がビジョンを示しつつ進めるべきです。地方で育った人が、東京や大阪に行かずとも、地元で教育を受け、働き、生活できる仕組みを整える。そのためにも、地方の大学や高専は重要な拠点になります。大学は単に研究機関ではなく、地域の暮らしや経済と直結する存在であるべきです。
―― 人口減少や資源制約が進む中で、大学のあり方を考える際には、国土の維持・管理という視点から、省庁横断的なアプローチが必要ではないでしょうか。
小林議員:非常に重要なご指摘です。大学のあり方は、教育だけでなく、産業、インフラ、医療など多くの分野に関わる問題ですから、文科省を含めて省庁横断的に考えるべきです。
また、社会全体として理系人材の育成が重要だと考えていますが、地域にはその土地ごとに多様な専門人材が求められます。大学のあり方は、全国一律ではなく、地域の特性や実情を踏まえた柔軟な対応が求められると思います。
また、社会全体として理系人材の育成が重要だと考えていますが、地域にはその土地ごとに多様な専門人材が求められます。大学のあり方は、全国一律ではなく、地域の特性や実情を踏まえた柔軟な対応が求められると思います。
6. 科学技術外交について
―― 国際的な科学技術に関する議論が重要性を増す中で、科学技術の専門知識と外交の素養を併せ持つ人材の育成が求められていますが、アカデミアや行政ではそのためのキャリアパスの構築が難しいのが現状です。この点について、どのようにお考えですか。
小林議員:おっしゃる通り、科学技術外交はますます重要になっています。政府の外交だけでなく、アカデミア同士の国際的なネットワークも極めて大切です。日本の研究者には、ぜひ世界の研究コミュニティで存在感を発揮してほしいと思います。
政府側の立場としても、私自身は文系ですが、科学技術の基本的な理解は不可欠だと感じています。同様に、アカデミアの方々が政治や行政の現場に関わってくれることも歓迎しています。現在は、そうした人材がまだ少ないのが実情ですが、技術力のある国は外交でも優位に立てるため、科学技術はまさに外交力に直結すると考えています。たとえば国際標準化の議論では、研究者の専門的意見に加えて、政治的な後押しがあることで、日本の交渉力を高めることができます。そうした意味でも、アカデミア・行政・企業・政治の間を柔軟に行き来できる「リボルビングドア」のような仕組みが、日本の科学技術力を底上げする鍵になると考えています。
政府側の立場としても、私自身は文系ですが、科学技術の基本的な理解は不可欠だと感じています。同様に、アカデミアの方々が政治や行政の現場に関わってくれることも歓迎しています。現在は、そうした人材がまだ少ないのが実情ですが、技術力のある国は外交でも優位に立てるため、科学技術はまさに外交力に直結すると考えています。たとえば国際標準化の議論では、研究者の専門的意見に加えて、政治的な後押しがあることで、日本の交渉力を高めることができます。そうした意味でも、アカデミア・行政・企業・政治の間を柔軟に行き来できる「リボルビングドア」のような仕組みが、日本の科学技術力を底上げする鍵になると考えています。
7. 世界の若手研究者に選ばれる国となるために
―― 日本の大学や企業が、優秀な海外研究者・留学生を惹きつけるのが難しくなっています。待遇や言語の壁、手続きの煩雑さなどが課題ですが、日本が世界の若手研究者に選ばれる国になるには、どのような政策が必要だとお考えですか。
小林議員:私は、「外国人を増やすこと」自体を目的にすべきではないと考えています。それよりもまず、日本人の研究者や学生のレベルをしっかり引き上げることが先だと思います。留学生を優遇するよりもその費用を日本人の学生や大学レベルの向上に使ってほしい。そこまでしないと外国の人が日本に来ないというのは、日本の大学に魅力がないからです。かつて日本は「技術立国」と言われましたが、今の日本が本当にそうか、疑問に思うところもあります。本当に科学技術で世界をリードしていれば、多少言語の壁があっても、海外の研究者は「日本に行けば学べる」と思って来るはずです。実際、日本が強みを持っている分野には、今でも海外から研究者が来ています。ですから、外国人の受け入れ環境を整えることも必要ですが、それ以前に、日本がまず技術力や研究力を高めることが大切です。それが結果的に海外から人を惹きつけ、多様性のある研究環境につながると考えています。
インタビューを終えて
今回私は、研究者として日々感じている課題や素朴な疑問に加え、日本工学アカデミー若手委員会、日本学術会議若手アカデミー、そして日本科学振興協会(JAAS)での幅広い議論を通じて見えてきた、とくに若手研究者を取り巻く課題について質問させていただきました。
国会会期中のご多忙にもかかわらず、事前にお送りした質問用紙にはびっしりとメモをご準備いただき、しかしインタビューの場ではその紙をほとんど見ることなく、私の目をしっかりと見ながら、一つひとつの質問に真摯に向き合ってくださいました。時に考え込みながらも丁寧に考え抜いて答えてくださる姿が、とても印象に残っています。
限られた30分という短い時間ではありましたが、日本のアカデミアへの期待、大学における研究・教育のあり方、科学技術外交や国際化の方向性など、多岐にわたる重要なテーマについて、深いご見解を伺うことができました。
この貴重な機会をいただいた小林鷹之議員に、心より感謝申し上げます。
国会会期中のご多忙にもかかわらず、事前にお送りした質問用紙にはびっしりとメモをご準備いただき、しかしインタビューの場ではその紙をほとんど見ることなく、私の目をしっかりと見ながら、一つひとつの質問に真摯に向き合ってくださいました。時に考え込みながらも丁寧に考え抜いて答えてくださる姿が、とても印象に残っています。
限られた30分という短い時間ではありましたが、日本のアカデミアへの期待、大学における研究・教育のあり方、科学技術外交や国際化の方向性など、多岐にわたる重要なテーマについて、深いご見解を伺うことができました。
この貴重な機会をいただいた小林鷹之議員に、心より感謝申し上げます。
2025年3月3日
衆議院第一議員会館にて
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