赤松健 参議院議員へのインタビュー
日本工学アカデミー 政策共創推進委員会「次世代人材による国会議員インタビュー」
武見綾子(東京大学先端科学技術研究センター (グローバル合意形成政策分野) 准教授)

2025年4月18日、参議院議員会館内の赤松健参議院議員事務所にて、赤松議員にインタビューの機会をいただいた。本インタビューは、日本工学アカデミー政策共創推進委員会の取り組みの一環として実施されたもので、国会議員と研究者との協働や交流を促進し、両者の政策共創力の向上に資する信頼関係の構築と情報共有を目的としている。
1. 新興科学技術分野のマネジメントの課題と重要性
– 新たな技術、メディア、あるいはコンテンツに対しどのような「マネジメント」が行われる必要があるかという視点は重要だ。
– かつて中国は「海賊版大国」と言われたこともあったが、以前より積極的な取り締まりが見られる。現在では、むしろベトナムが海賊版の拠点になりつつあるとの指摘もある。今後どうなるかは不透明だが、そうした動きも踏まえ、最新の情報を反映した各種の適切なコントロールが必要になるだろう。大手メディア企業が主導する大規模なコンテンツ管理が求められる可能性がある。
– 海外では新聞社と AI 企業が提携し、対価を還元する取り組みが進む。まだ生成AI黎明期であった2年前から「契約による対価還元」の重要性に着目し、何らかの対処の重要性を訴えてきた。一方で、「対価還元では甘い」としてより強い規制を求める立場も根強い。
2. 日本の「勝ち筋」としての「コンテンツ」「インターフェイス」
– AI の基盤理論分野は競争が激しく、短期間で世界最先端と競争することは現実的でない可能性が高い。一方、「インターフェイス」にむしろ可能性がある。
– AI が音声と顔を伴って応答するようになると、その表情や仕草――人間と AI が向き合う窓口部分となる、「インターフェイス」部分の重要性が増す。
– 海外で一般的な3D 風のキャラクターと比較しても、日本的な可愛いキャラクター――キティちゃんやアニメ系ヒロインなど――は世界に受け入れられやすい特徴を持つ。その強みを生かし、日本風のインターフェイスが世界標準となる可能性さえある。
– これはロボティクス分野でも同様。日本は親しみやすいデザインをすることに長けており、「愛着が湧く」ロボットを作れるのは日本だと思う。
– 日本のデザイン力は突出しており、これを強みとして新たな分野でも積極的に打ち出すべきだ。
3. 技術競争と継続的な投資の重要性
– 量子コンピュータのエラー訂正やトランスフォーマーの革新など、大きな“ジャンプアップ”は欧米が主導している。日本が2番手戦略を採るなら、そのポジションをどう確保するかが課題だ。本音を言えば1番手を目指したい。日本はノーベル賞級の研究が出る国であり、新たな予算策定が必要であり、独自技術への期待も寄せられる。
4. 市場への見方-「内需」の重要性の再訪
– コンテンツ産業を見るに、「内需」の重要性は一つの重要な視点として挙げられるだろう。例えばコンテンツ産業は内需が極めて強い。出版社は増収増益を続け、国内だけで十分稼げている。国費を投じてコンテンツ産業を推進する国もあるが、2D アニメや通常の漫画では日本は負けていない。
– 日本人が本当に欲しいものを追求する姿勢は幅広い分野で鍵になるかもしれない。海外を意識する前に、まず国内で支持されるものを作るという姿勢の重要性を再度強調したい。
5. EU・アメリカのAI規制と日本の柔軟な立ち位置、日本の強みと可能性
– EUは個人情報やサブリミナルな分野への規制を進めているが、その整備には時間がかかる。技術面でアメリカが先行するため、ヨーロッパは不利な状況にある(*注 インタビュー当時の状況) 規制強化の流れに単純に乗らない日本の現状はポジティブに評価される。
– 多くの海外企業や著名人が日本に関心を持ち訪れており、アニメや漫画など日本のコンテンツにも熱中するなど、分野を通した価値観の共有が進んでいる。マイクロソフトやオープンAI、Xなどの創業者や経営者も、日本文化に親しみを持つ人が多い。オタク的な側面があることも親近感につながっている。
– こういった背景のもと、日本独自の活躍の場が広がる可能性がある。この日本独自の価値観やキャラクターを活かし、世界共通のユーザーインターフェースや親しみやすいAIを開発、提供することも選択肢だ。子どもでも使えるAIの実現を目指すことができるだろう。
– アメリカではフェアユースにより学習が可能だが、日本でも学習自体は合法なため、トップ企業との連携や議論が進めやすいと考えられている。こういった対話の中で企業トップが対価還元に前向きな姿勢を示すだけでも、現状、及び今後の議論において意義を持つ可能性がある。
6. 日本の政治・行政におけるリーダーシップとスペシャリスト・ジェネラリストの役割、科学技術政策のあり方(赤松健議員、武見綾子准教授、永野博政策共創推進委員会委員長による意見交換の内容)
– 赤松議員のコミットメントや活躍は、より幅広く政策形成過程における専門家の役割、これを踏まえた科学技術政策のあり方という観点からも示唆的だ。
– 総理を含め総括的なリーダーシップにおいては、ジェネラリスト的な観点も非常に重要である。
– 一方、赤松議員の活動に見られるように、スペシャリストの意義が再度重要視される。予算獲得では専門家の意見が大きな影響力を持つ場面もあり、赤松議員自身も専門性を活かしコンテンツ分野で成果を上げている。参議院議員として任期が6年あることによる安定した業務実施の意義についても強調された。
– 日本の官僚組織について、実践経験のあるスペシャリストが少ない傾向にあり、そうした人材の流動性を高める必要性も指摘される。
– 「分野横断で物事を語れるジェネラリスト」と「深い専門性を持つスペシャリスト」の協働が、日本の政策形成に不可欠だ。つまり、スペシャリストとジェネラリスト双方のバランスが取れ、両者が相互に補完し、専門分野の知識が政策形成に活かされる政治のあり方を構築することが肝要だ。その実現には、官僚・議会双方での人材多様化と専門知識の活用体制強化が急務である。
インタビューを終えて
この度のインタビュー(及び意見交換)では、特にAIに関わるガバナンスや今後の展開を中心に、幅広いお話を伺った。AIという大きく常識を変えるような可能性がある技術に対してどのようにアプローチを取っていくかという問題は新興科学技術ガバナンス一般の観点からも、また日本の今後の国際的な立ち位置という観点からも非常に示唆的である。一方的・断定的な解があるものではないが、日本としてプレゼンスを示す契機でもあることを改めて感じる機会となった。
コンテンツ産業が今後さらに広い射程を持ちうることなど、日本にとって希望のあるお話しも伺うことができた。各種の高い専門性を持つ方々の主体的な政策決定プロセスへの関与の意義についても議論が及んだところだが、様々な観点で主体的に日本の前向きな成長を支え、リードすることの重要性はさらに高まっていくことが示唆されるように感じた。
ご多忙の折お時間を頂きました赤松議員に、またこの機会に重ねて御礼申し上げます。
2025年4月18日
参議院議員会館にて
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