会長就任にあたって
三菱マテリアル株式会社 相談役
永野 健
この度は、はからずも社団法人日本工学アカデミー会長という、大役を仰せつかることになりました。
初代の故小林宏治会長、そして向坊隆先生、岡村総吾前会長の卓越した指導の下に、着実に今日の地歩を築き上げたアカデミー10年の歴史を振り返る時、改めて自らに課された役割と、責任の大きさを痛感する次第です。
顧みますと私も、1987年の工学アカデミー創設当時のメンバーの一人でした。経済の国際化とともに、一方では実務に携わる各国の研究者、技術者が、互いに交流して問題の解決を図らなければならない、いわゆる国際間の技術摩擦が増えてきた頃でもあります。
日米間の課題に対しては、アカデミーに先立って日本学術振興会の「先端技術と国際環境第149委員会」が発足していたのですが、もともと我々技術者集団の底流には、何にも束縛されない自由な議論ができる自前の場が欲しいとの願望があり、このような気運の高まりが、我国初の工学アカデミー創立につながったのだと思います。
ちなみに世界工学アカデミー連合に参加する各国の工学アカデミーは、全てが民間の団体であります。私は、今後とも、このアカデミー設立の精神、すなわち互いの利害を超越した活発な議論と、創造的な雰囲気を大切にしたいと思うのであります。
これからも経済と社会の国際化は、ますます進みましょう。長期的に見れば、現在の混迷を克服してアジア諸国が更に発展することは、疑いのないところです。一方、経済的には成熟したとは言え、日本の社会においても国民生活の質的向上が求められているのです。そして現代文明を支え、人々の豊かな生活を保証するのは、紛れもなく技術の進歩なのであります。しかも技術の進歩は無限であり、社会の発展に技術のはたす役割と責任が広く認識されなければなりません。
今後の日本工学アカデミーの運営に関して、私は次の項目を強調したいと思います。
一つは、これまで同様、内外に開かれた活動を目指し、国際協力を推進することであります。第二は、工学アカデミーの法人化を機に、組織の拡充とアカデミーの活動を支える財政基盤を強化することです。第三には、昨今では地球環境問題を始めとして、より学際的な領域に研究課題が拡がっています。このような分野には、工学アカデミーのもつ総合力と可能性が、存分に生かされなければなりません。そして最後に、科学技術の精神の次の世代への継承であります。私どもは技術の立場から進んで世に提言し、社会を啓発していくべきだと考えます。
今後とも会員各位の積極的な協力と御支援を、切にお願いする次第であります。
(EAJ NEWS No.62 1998年6月)