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公益社団法人 日本工学アカデミー

日本工学アカデミーは、工学・科学技術全般の発展に寄与する目的で設立された産学官の指導的技術者の団体です

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就任ご挨拶(5代会長)西澤 潤一
会長就任にあたって

岩手県立大学 学長
西澤 潤一

入会するのも憚られた極めて高レベルの学会;日本工学アカデミーの会長をお引き受けすることになろうとは全く予想も出来なかったことです。
設立の原動力は、学術会議が熱心な討論の結果、何らの結論も出し得ないと云われるようになり、何とか実行しながら改良の道を探ってゆくようにできないかということで、米国にならってEAJが設立されたと聞いております。
現在世界的に見て、工学の重要性は急速に高まりつつあり、漸く、認識されて輿論となってきております。人間が殺し合うことの無意味さ、悲しみにも心配りが行き届くようになって、武力競争にも徐々に歯止めがかかるようになって、二十一世紀には、競争は、科学技術による経済競走に変わる、或いは、環境維持確保の競走になるとも云えるのではないでしょうか。
然し、資源の全くないと云ってもおかしくないが故に、特に科学技術の進展が生命線である我が国の現状認識は、残念ながら決して進んでいるとは云えない。本来であれば、当然、ぬきん出た対応を実施していなければならないはずです。
現実には、世界の識者が、日本の現状を検分して、いたく心配してくれております。その最大の変化は、本来、もっとも重要であると期待されている創造的な成果が少なくなったと云うことです。高い人件費社会では、高度科学技術を駆使して、他の社会では製造出来ないような高度の製品を生産する以外に工業が成り立たないのは火を見るよりも明らかです。生産技術を高度化してこれに対応しようとした我が国の試みは、現在のところ脆くも敗れて文字通りの基幹産業と自他共にゆるしたDRAMすら、崩壊しております。生産だけを限定して立場を確保しようなどと考えることでは、未だ未だ甘かったと云うことでしょう。根本的に物自体を創造して、幅広い応用までを含めた創造的独自産業に展開してゆくダイナミックな産業自体を持つことが不可欠であることを手痛い体験の中に学びとる今日です。
暗記勉強の行きすぎは日本の若者から思考能力を奪ってしまいました。ハウツウ思考、考えて書いていたら全問に解答が書けないなどという言葉が長い間何気なく使われて参りましたが、その間に着々と若者の思考能力は成長を止めてしまっていたのです。
知識が頭脳の中で相互作用を起こすことが思考であり、互いにつながって智となってゆく。知識は理解につながり、更に発展して思考体系が形成される。文系で云えば人生観であり信条が出て参ります。技術としては、学術のネットワークが頭脳の中に形成され、何かの事象を見れば忽ちにして本来の現象として納得する。直ちに対応策が出てくるのです。
ところが、現実の問題としては、思考力が発達しないから、知的ネットワークが殆ど出来ていない。従って、正確適正な処置が出来ないから、事故が起こる。事故が起こっても対応が出来兼ねる。ましてや創造など出来る筈がなくなるのではないでしょうか。
今や、我が国の知的病は篤いと思わねばなりますまい。正に、今、日本工学アカデミーは総力を挙げて原因の追求と、その対策について深く広い活躍をすることが期待されています。
本来素晴らしい独自文化を築いて来たアジア人の一員として我等が祖国には素晴らしい人材が沢山居ります。これらを伸ばし、育ててゆきさえすれば、忽ちにして息を吹き返し、再び輝かしい道を歩みはじめることは疑う余地がありません。しかし、この儘では、とても次世代の人達に引き継いで貰うわけにはゆきますまい。会員の方々のお力を借りて、我等が母国再出発のために暫く力をつくしたいと念じております。

(EAJ NEWS No.86 2002年6月)

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