skip to Main Content

公益社団法人 日本工学アカデミー

日本工学アカデミーは、工学・科学技術全般の発展に寄与する目的で設立された産学官の指導的技術者の団体です

お問い合わせ

Phone: 03-6811-0586
〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町二丁目7番3号 HKパークビルⅢ 2F

アクセスマップ

天野浩先生にインタビュー

日本工学アカデミー ジェンダー委員会学生委員
名古屋大学大学院エネルギー理工学専攻
博士後期課程3年 寺林稜平

 

名古屋大学C-TECsにて
天野浩先生(左)と筆者(右)

近年、女性の社会進出やダイバーシティ推進に関する様々な取り組みが行われている。一方で、日本は依然、諸外国と比較して遅れていると聞く。特に、日本の社会に深く根付いた男性社会的・排他的な意識の改革は今後の大きな課題である。筆者は今回、2014年ノーベル物理学賞受賞に代表されるように、半導体工学の研究分野において第一線でご活躍されている天野浩先生(現名古屋大学未来エレクトロニクス集積研究センター長・教授)にインタビューを行い、特に学術界におけるジェンダー、ダイバーシティの推進とイノベーションについてお話を伺った。

 

 

ジェンダーからダイバーシティ、そしてイノベーションへ

性別ではなく個人。それぞれが活躍することが重要
筆者(以下略):天野先生の視点から、学術界におけるジェンダーについて、今と昔で変化を感じていますか。
天野先生(以下敬称略):私自身は半導体工学の分野しか分かりませんが、少なくとも半導体工学においては、徐々にではありますが変化を感じます。我々が学生の頃は、非常にご活躍されて目立っていた女性研究者はいらっしゃいました。ただ、ほとんどが企業の方で、大学ではいなかった。今は、大学でも本当に少しずつですが、女性研究者の数が増えてきています。我々が学生の頃は、女学生はまさに天使のような存在でしたねぇ~。
―― 天使、ですか…。では、そのうえで、率直にお聞きしますが、天野先生ご自身は、ジェンダー推進、女性活躍の必要性についてどのようにお考えですか。
天野:もちろん大切であると思います。生物学的な得手不得手は存在するものの、男性と女性が同じバリアで自己実現が果たせる社会にする必要があると思います。性別が、やりたいことを実現する妨げになったり差別されたりすることは、あってはならないことだと思いますし、例えば子育てに対する考えなど、ジェンダーという点で、我々の意識を変えていく必要があると思います。一方で、出生率の急速な低下や少子高齢化という観点でも必須だと感じています。最近、2050年には生産年齢人口割合が50%を切るかもしれないというショッキングなニュースを目にしました。恐ろしいですね。このような深刻な問題の中では、女性や、女性に限らず、あらゆる人が自分の強みを発揮して活躍していかないといけないと思います。
―― まさに総活躍社会ですね。“女性に限らず、あらゆる人が”ということで、ダイバーシティ、多様性につながりますね。
天野:実は、研究という面でジェンダー推進を考えたときに、私自身は、男女で能力に違いを感じてはいません。というのも、性別ではなく、一人一人、個人の素養としてしか見ていないからです。女性だから集中力が高いとか、これが得意とか、研究においてそういうのを感じたことはないですね。
―― 女性研究者がより活躍することは、女性だから、ではなく、個人として様々な強みを持っている研究者がより活躍する、という点で重要であるということですね。
天野:能力面で、女性にしかないようなものがあって、女性研究者が活躍すればいい研究成果が生まれる、というようなことはないと思います。あくまでその人自身の素養によるもので性別は関係ありません。性別ではなくあくまで個人。研究でもそれぞれが強みを生かして活躍することが重要です。
天野:最近の話で、ジェンダーといえば、大学でも女性研究者を増やそうということで、目標を定めて努力しています。ただ、そもそも、半導体工学、電気電子の分野では、大学の女学生の数が絶対的に少なく、女性研究者を増やしたいと思っても、そもそもの母数が足りていません。そういう意味では今でも依然、天使のような存在といえるかもしれません。女性にとって学問として魅力が足りていないということでしょうかね。
―― 確かに工学部でも特に物理系は女学生の割合が少ないです。魅力というよりも、大学より前の教育に原因があるかもしれません。魅力を感じる前に文理選択や進路選択が来てしまう、というような。
天野:そうすると大学だけではなくて高校や、もしかしたら小中学校の教育を変えていかないといけないかもしれないということですか。小学校からプログラミング教育が始まると聞きましたし、徐々に状況は変わって来るかもしれませんね。いずれにしても、我々の分野を学びたいと考えてくれるような女学生がもっと増えたら、と思います。

 

ダイバーシティがイノベーションの可能性を高め加速させる
―― では、ダイバーシティについて、研究や教育に携わる中で具体的なエピソードはありますか。
天野:先ほど、性別で差は感じたことがないと言いましたが、国による違いは感じることがあります。私の所属する研究センター(名古屋大学未来エレクトロニクス集積研究センター)ではおかげさまで、海外からの学生、研究者がたくさん来てくれています。アジア、中国、韓国、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカ、アフリカなど、それぞれなんとなく特徴あります。例えばアジア系の人は知識量がありますが、いざ実験になると戸惑ってしまう人が多い。一方で、ヨーロッパ、特にフランスの人は実験がしっかりしている、物理もしっかり身についている。理由を考えると、これは受けてきた教育の差だなと。アジア系では教育課程の中で、実験はあまりしてこない。座学が中心なんですよ。私が見学させてもらったフランスの大学では、過去の研究者たちが実際に行ってきた実験を再現するような物理の実験を自ら一人一人経験できている。学問の基礎がしっかり身についていると感じました。もちろん、これは“経験”の差であって、性別同様、国で分けることはできません。あくまで個人の素養ですが、受けてきた教育で一定の傾向がみられるのではないかという話です。
―― 研究に限らず、受けてきた教育が、その人のもつ素養につながっているということですね。では、多様な研究者が協働することは、どのようなメリットがあるとお考えですか。
天野:昔と違い、今ある問題は複雑で、様々なものが絡み合っています。これからは新しい価値を生み出す研究開発が求められています。このためには、多角的な視点で柔軟に研究を行う必要があり、単独、または同じような人間が集まっていても成功はありません。そこで、ダイバーシティが必要だと思います。多様な人材が、様々な議論をし、協働していると、それぞれの個性が出てきます。個性が表に出てこそダイバーシティと呼べます。ダイバーシティが新たなイノベーション創出の可能性を高め、そしてそれを加速させる、と考えています。
―― 天野先生が旗頭となり、名古屋大学にて進んでいる卓越大学院DII協働プログラム(※1)はまさに、ダイバーシティ推進により新たな価値を生み出すことを目的としたものといえるのではと思いますがいかがでしょうか。
天野:DIIプログラムは、青色LEDが研究開始から社会に普及するまで30年を要したことを、ある投資家に「投資家はそんなに待てないよ」と指摘されたことが着想のきっかけです。研究によりシーズを生み出し(Investigator)、問題解決のため製品を開発し(Innovator)、社会に普及する(Deployer)。この3者を高いレベルで育成し、彼らが協働することにより30年かかったイノベーションを10年以内に加速したいというのが願いです。それぞれ異なる素養・資質が求められるという意味で、ダイバーシティといっていいかもしれませんね。掲げた理念に沿った博士人材を輩出できるよう、今まさに活動しているところです。
(ここで天野先生が逆に聞きたいことがあると対談形式への変更をご提案)
天野:寺林さんは、リーディング大学院での活動※2などを通じて、何を得て、これからどう活かしていこうと考えていますか。
―― 私が所属していたリーディング大学院では、理系文系に限らず、多様な背景・専門を持った様々な国籍の博士課程の学生とたくさんの時間を過ごし、多くの会話・議論をしました。基本的には仲がいいのですが、お互い譲らずに意見が衝突することも多かったです。専門が違えば、価値観も、意見も、考え方のプロセスも全然違うことを知りました。彼らと建設的に議論するためには、専門を含め、相手のことを理解する必要がありました。この経験が柔軟な思考力と多角的な視点を養うのに役立ったと感じています。今後は、一人の研究者として、そしてエンジニア、リーダーとして新たな価値を生み出すことで、社会に貢献できたらいいなと考えています。
天野:素晴らしいご経験をされたのですね。では、その多角的な視点や柔軟な思考力、また、ダイバーシティはイノベーションに必要だと思いますか。
―― 天野先生からすでにお話をいただいた通りですが、SDGsにあるような問題を解決していくためには、これまでの技術の延長ではなく、まさにイノベーション、これまでにない新たな価値・技術を創出していく必要があると思います。この時、一つの分野を極めた専門家だけでどうにかなるものではなく、一方で、”広く浅く”でいいわけではないと思っています。理想は“広く、すべてに深く”だと思いますが、個人には限界があります。だからこそ、ある分野をある程度深く修めたうえで、広く様々なことを柔軟に理解できる個人が、協働し、多角的に議論する必要があるのだと考えています。
天野:博士の学位を取得することにプラスアルファで人材育成プログラムを行うことに意味があると感じることができる回答で、非常にうれしく、そして頼もしく思います。

 

広い視野をもって長期的なビジョンを持てる人が必要
―― それでは、最後に、私を含め、若い世代の研究者やその卵たちにメッセージをお願いします。
天野:これからは、我々人類が解決を後回しにしてきた、非常にチャレンジングな問題を解決していく必要があります。広い視野のもと、自分は何を解決していくのか、という長期的なビジョンを描ける人がどんどん必要になっていく。研究に限らず、これからを担う人材の育成という点も含めて、我々も微力ながら尽くしていきたいと思っていますが、若い皆さんには、ぜひ情熱をもって、失敗を恐れずにどんどん突き進んでいただけたらと思います。

 

インタビューを終えて
今回のインタビューを通して、ジェンダーやダイバーシティの推進の必要性、特にイノベーションとどうつながっていくのかを改めて考えることができた。インタビュー中、天野先生からは、常に、私を含め若い世代への大きな期待と希望を感じた。天野先生からいただいた力強いメッセージを胸に、これから自分がどのように社会に貢献できるのか、考えていきたい。

 

インタビュー 2019年10月某日
名古屋大学エネルギー変換エレクトロニクス研究館(C-TECs)にて

※1 名古屋大学未来エレクトロニクス創成加速DII協働大学院プログラム
(https://www.dii.engg.nagoya-u.ac.jp/program/)
※2 筆者は名古屋大学リーディング大学院PhDプロフェッショナル登龍門3期履修生である(http://www.phdpro.leading.nagoya-u.ac.jp/)

 

> ジェンダー委員会 へ戻る

Back To Top