ダイバーシティに関するGood Practice

山崎直子さんにインタビュー

日本工学アカデミー ジェンダー委員会学生委員
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯理工保健学専攻
修士課程1年 峯村 梓

 

筆者には,技術者として世界中の人間が等しく高度な医療を受けられる体制を整えるという夢がある.この夢をかなえるためには,企業で技術者としてキャリアを積むことが第1歩だと考えている.一方で,今後母親としての生き方も送りたいという思いもある.これらを両立できるのか,バランスを上手くとれるかという不安もあり,仕事と子育ての経験をお持ちの山崎直子さんにインタビューしたいとの思いを強くした.日本人宇宙飛行士,JAXAの技術者として宇宙開発に尽力されてきた山崎直子さん.山崎さんが子育てをしながら宇宙でのミッションを行ったことを知り,そのときのご経験や考え方,加えて,宇宙飛行士になるまでどんな生き方をしてきたのかということに興味を持った.山崎さんに,工学分野に足を踏み入れたきっかけとその魅力,技術者としてのキャリアを積みながら子育てを行ったご経験をうかがった.

 

工学の魅力について
筆者(以下略):工学のどういうところが面白いと思われますか.
山崎さん(以下敬称略):工学の面白いところは本当にたくさんあります.指導教員がよく,工学というのは夢を形にする学問だとおっしゃっていたんですね.それに感動しました.夢を実現するにはたくさんの手段があります.政治の分野だったり法律の分野だったり,医学・医療から貢献したり,色々ある中で工学はそれを形に出来ていくというところが私は魅力だなと思います.
―― 工学のどこにやりがいを感じられますか.
山崎:工学って結構色々な分野と繋がるんですよね.例えば医療機器だと医療の分野の方と繋がっていたり,宇宙の分野だとロケットとか人工衛星を作っていますけどそのミッションをするのは研究する物理学者の方だったり天文学者の方だったりします.色々な方と連携をとれるところが私にとってはやりがいのあるところだなと思います.

 

宇宙飛行士を目指したきっかけについて
―― 小学生,中学生時代はどのような生徒でしたか.
山崎:小学生くらいのときはすごくのんびりしてました.自然もまだ豊かでしたし,生き物もすごく好きで,よく蝉の羽化しそうなのを明け方まで毛布かぶってずっと見ていたり,アオダイショウをみんなで捕まえたりしていたので生き物は好きでしたね.科目としては理科とか算数が好きでした.
小学生のときにSFとかアニメとか宇宙戦艦ヤマトとかスターウォーズとかに感化されたり,当時NASAの探査機でボイジャーという探査機が土星・火星・木星の近くに行ってすごい綺麗な映像を届けてくれていて宇宙の美しさに感動したり,小学校2年生のときに星を観る会に参加して初めて天体望遠鏡をのぞかせてもらって月のクレーターとか土星の輪っかを見たりとか,そういった1つ1つの経験が重なって少しずつ宇宙を好きになっていきました.宇宙に大人になったらみんなが行くんじゃないかとか,車は空を飛んで人はコロニーなんかで生活するんじゃないかみたいな未来予想図の中で考えていました.それが中学校3年生のときにチャレンジャー号の事故をみて,やっぱりSFではなくて現実の世界で宇宙開発があることを知って,宇宙開発に私も携わりたいなと思ったのが直接的なきっかけです.
また,中学生のときにアメリカの女の子と文通をしていたんですね.それで他の国というのに興味をもちました.それでいつかはアメリカに留学したいと思いましたし,アメリカや他の国,海外で働きたいと思うようになりました.

―― 宇宙飛行士になりたい理由の一因として,チャレンジャー号爆発事故を挙げていらっしゃいます.恐怖心はありませんでしたか.宇宙飛行士に採用された後,10年間気持ちを持ち続けられたモチベーションは何でしょうか.
山崎:チャレンジャー号の事故は不思議と恐怖心はありませんでした.訓練を開始して4年目2003年の時にスペースシャトルコロンビア号の事故がありましたが,むしろその時の方が怖いなと思いました.他人事ではないということと,実際に訓練していた生身の仲間が犠牲になったからです.ただ,自分自身はそういうことは分かって宇宙飛行士に志願していますし,「宇宙で死ねるなら本望だ」くらいに思うんです.でも,そのときには長女が生まれてまだ間もなかったので遺された家族の方々が悲しんでいる様子を目の当たりにすると,家族にものすごい責任を負っているんだということをひしひしと感じました.
最終的には11年間訓練していましたが,モチベーションを保てたという部分に関しては,純粋に子供の頃からの「好きだ」という思いです.訓練は厳しかったのですが,訓練させてもらえること自体がありがたいこと,楽しいことなので苦ではありませんでした.ですが,自分の目標に向かうことによって家族や1番大切な人に迷惑がかかる,自分の大切な人を苦しめることになるかもしれないという気持ちはありました.私が宇宙に行ったときや訓練の過程で事故になって死んでしまったら,当然家族は苦しむし悲しむので迷惑がかかるという気持ちはありましたね.
これはいろんな職業の方に共通するところだと思うんです.働かれている方ってどうしても家族と一緒にいられる時間が減るので家族にしわ寄せがいってるんじゃないかって皆さん共通で悩んでいると思います.
子供ができる前は自分中心に自分の人生考えるんですけど,不思議と子供ができると子供の方が大切になるんですよね.でも家族とずっと一緒に何か出来るわけではないという制限があるのでどうしても葛藤は出てきます.でもそこはもっと社会的に両立しやすい環境になるともいいなと思うし,なっていくと思います.「子供は大切」だけれど「自分のやりたいことや社会に貢献していきたい」という思い,両方大事にしてほしいと思います.

 

なぜ女性の研究者は少ないのか
―― 女性の研究者は,特に教授クラスになると一気に減る印象があります.工学は男性と比較して女性が活躍できないフィールドではないと思いますが,山崎さんはどう思われますか.
山崎:全く同感です.工学の分野自体に男女差は全くないですし,同じように活躍できると思います.ただ,仰るとおり,博士課程から助教授(2007年4月からは准教授),教授の立場になると女性の割合は一気に下がります.学生さんも少ないですが,さらに教授クラスになるとほとんどゼロというところが多いと思います.どこに性差の壁があるのかというのは非常に難しくて,複合的な問題かと思いますが,教授クラスになると新陳代謝自体が起こりにくいというのがあります.男女関係なく,新たな人が入りづらいというのがまず大きな壁として1つあるんじゃないかと思います.その中でも女性というとやはり,結婚・出産などで一時期キャリアが中断するところが響いてくる点もゼロではないと思います.

―― 女性の研究者が少なくなる原因の1つとして,結婚・出産が考えられますが,女性が研究者として生きていくのは大変でしたか.
山崎:私自身は修士を卒業した時点で働き出したので博士まではとっておらず,研究者の立場とは違うかもしれませんが,JAXAで技術職として働いてきた立場から言わせて頂くと,結婚・出産・育児は,不可能ではなかったですが,やっぱり大変だなあと思いました.産休と育休を取ると,どうしても何ヶ月間かはブランクになります.渦中にいるときは,皆さんが走っている中で自分だけそこから離脱することや,戻った時にきちんと職場に戻れるか不安でした.幸いJAXAの場合は制度がしっかりしており,産休・育休をとった後もきちんと戻れるということについて安心感はあったので,すごくありがたかったです.ただ育児は長丁場なんですね,その後も復帰したからといって100%今までの状態で働けるというわけではなかったです.仕事の速度や量を落とさざるをえない.そこの兼ね合いが非常にもどかしかったところだと思います.

 

結婚,出産,子育ては研究者人生の高いハードルなのか
―― 山崎さんにとって,結婚・出産や子育ては研究者人生の高いハードルだと思われますか.アドバイスをいただけませんか.
山崎:チャレンジングだけどインポッシブルじゃないよねとよく先輩の女性の宇宙飛行士からも言われていて励まし合ってました.
あと,100%は求めないということですね.全部完璧にやろうとすると本当に疲弊していくので,この分野では100%求めようそれ以上求めようというところはあると思うんですけど,手を抜いて良いところは手を抜きながら,優先順位をつけながらやって,気を楽にして楽しみながら子育てするのがいいんじゃないかなと思ってます.
あとは人の手を借りることですね.自分だけで全部は回せないです.働いてる間は物理的に自分だけではできないとこもあるので,そういったところはいろんな方に助けてもらいながら,お互い様でやりくりできればいいんじゃないかなと私自身思います.

―― 性別にかかわらず,色々な働き方があると思います.家庭で子育てをしたい人もいれば,子育てをしながら会社で働きたい人もいる,あるいは子供はいらないから社会で働いていたい人もいると思います.どの選択をしても良いと思いますが,世間にはそれに対して文句を言う人もいらっしゃると思います.そのような風潮や世間一般の考え方について,山崎さんはどう思われますか.
山崎:色々な考え方は世間の中であってそれが一概にどれが良い悪いというわけでもないのでいろんな意見があることがむしろ当たり前だと思います.
横断的なネットワークが大切だと思います.皆さんの間で何か困ったことがあったときに組織の中だけにいるとどうしても組織のルールだとかが全てに思えるんですけど,ちょっと違う外の友達がいると,“ここの会社ではこうしてるよ”とかちょっとした情報が改善のヒントになると思います.

 

後輩にエール
――工学に限らなくて結構ですので,宇宙飛行士や工学技術者として生きてこられて,楽しかったところとかやりがいを最後に教えて下さい.また,理系を志す若い世代や,我々後輩にエールをお願いします.
山崎: 若い世代の皆さんへのエールですけれども,世界は皆さんが思ってるよりもまだまだ広いですよっていうことかなと思います.工学に限らないですけど,全ての学問の分野ってフロンティアを少しずつ広げていくことだと思うんですね.私自身の経験としては宇宙飛行士としていろんな国の人と働けることが多かったことがあります.国際宇宙ステーションにしても15の国で協力して運用していますが,それぞれ国の間では緊張が走ったり一筋縄ではいかないこともありました.でも科学の知見を広めて私たちの生活をよりよくすることにつなげていこうという思いは共通なので,同じ目的に向かって一緒に取り組めた点にやりがいがありました.色んな人がいて色んな世界があって,どんどん世の中の技術が進歩していくことで色んな可能性がでていて,だから,皆さんが思っているより世界はもっと広くてもっと楽しいです.もっとわくわくします.だから,自分が好きな好奇心を大切にして,その分野を大切に温めて突き詰めていくときっと自分がやりたいこととどこかで結びついてリンクしていってそれが自分の夢と繋がってくると思うんですね.最初は小さな好奇心,きっかけかもしれないです.でもそういう1つ1つの好奇心を大切にしていってほしいなと思います.

 

インタビューを終えて
山崎さんとのお話の中で最も印象的だったのは「世界はまだまだ皆さんが思ってるよりも広いですよ」という一言である.世界には様々な考え方や価値観があり,どれも否定することは出来ない.自分の「好き」という気持ちを大切に温めて夢に向けて尽力した先にどんな世界を広げることが出来るのか.今から楽しみである.

 

2021年1月14日
Web会議にてインタビューにご協力いただきました.