ダイバーシティに関するGood Practice

佐々木かをりさんにインタビュー

日本工学アカデミー ジェンダー委員会学生委員
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯理工保健学専攻
修士課程1年 堀内 榛香

 

筆者は生体情報工学に関して研究を行っており、卒業後は企業で働くことを考えています.大学院で身につけた知識や経験、スキルを活用して、社会に貢献したいと考えています.工学分野では働く女性の割合が1割程度と少ない環境にあり,今後働く際に妊娠・出産・育児のために働ける期間が短くなる可能性があるため,女性としてどのように社会で働いていけばよいかについて,考えてみたいと思っていました.
一方,近年において多くの企業がダイバーシティの重要さを唱え,「女性の管理職の割合」や「育児休暇の取りやすさ」を強調しています.ダイバーシティのメリットは十分に理解できる一方,既に成功を収めている企業でもダイバーシティの課題など改良すべき点はないのか,という疑問が残りました.この疑問について,佐々木かをりさんにお話を伺いたいと思い,インタビューさせて頂きました.佐々木さんは今ほどダイバーシティが注目を浴びていない頃からこの課題に取り組まれてきました.佐々木さんがこの活動に取り組まれるようになったきっかけや,現在のご活動やダイバーシティの第一歩である女性活躍推進へのお考えについてお伺いしました.

 

1.ダイバーシティの課題に取り組み始めたきっかけはメディア
筆者(以下略):佐々木さんがダイバーシティの課題に取り組まれるようになったきっかけを教えて下さい.
佐々木さん(以下敬称略):20代で通訳・翻訳サービスを提供する会社を起業しました.当時は,男女不平等の課題など気にもせず,女性も男性も関係なく仕事をしていました.当時珍しかった「20代の独身女性が起業したこと」に世間から注目が集まり多くの取材を受けましたが,会社の業務内容についての取材ではなく,「何故20代の独身女性が起業した?」や「男女不平等についてどう考えているのか?」という内容ばかりの取材でした.マスコミに取材され意見を述べることを繰り返していたら,いつの間にか「女性活躍について」ばかりメディアに答えていたことになりました.ジャーナリストに誘導されながらこの課題に突入したことが,「ダイバーシティ」の課題に取り組み始めたきっかけです.1年程経つと課題の現状が見えてきて,意欲のある人達が繋がるネットワークや,活躍できる場を作る取り組みを行ってきました.

 

2.ダイバーシティの必要性
既に成功を収めている企業でもダイバーシティを推進するべき理由とは?

―― ダイバーシティとは多様性であり,企業の利益に直結するというメリットが報告されています.なぜダイバーシティはメリットを生むのか,一方取り入れないとどのようなデメリットが生じるのでしょうか.

―― ダイバーシティが利益に繋がる理由を教えてください.
佐々木:ダイバーシティは「3人寄れば文殊の知恵」ということわざがまさに示していると私はお話ししていますが, 日本に古くから存在している考え方で,様々な人,価値観がバラバラに存在することではなく,皆の知恵が集まってより良くなる,ということです.
ダイバーシティが利益に繋がるまでには,3つのステージがあります.1つ目のステージは「ダイバーシティ」です.「ダイバーシティ」は多様性で,組織に多様な人,様々な価値観が存在することです.しかし,多様な人を集めても,ただ集まっただけでは利益は生まれません.2つ目のステージは「インクルージョン」です.集まった人の能力の最大限生かすことができる状態です.そのために,会議,人事評価,採用,昇進・昇格などの様々な仕組みを変える必要があります.これによって,それぞれの人が持っている視点を,最大限活かすことができます.ただ,日本企業では年功序列があり仕組みをすぐに変えられるものではありません.どのタイミングでどのように変えるのか,現実的には難しいです.ですが,「インクルージョン」が達成されると,3つ目のステージ「イノベーション」が起こります.仕組みや風土が変わり集まった多様な人を最大限生かすことで,改革されていく, という意味です.いろんな視点からチェックする仕組みができているということです.いい商品・サービス,業務プロセス・仕組み, 企業風土,ガバナンス, などが良くなるように視点を入れることで,企業が健全に運営できます.

―― 様々な制度を変えることは,佐々木さんもおっしゃる通り簡単ではなく,企業にとって大きなリスクにもなり得ると思います.既に大きな利益を得ている企業では,これまでの風土を変え,ダイバーシティ推進という「変化」を取り入れないのではないでしょうか.ダイバーシティを取り入れないデメリットを教えて下さい.
佐々木:短期的にはデメリットは気付きにくくても,将来的には沢山あります.例えば,過去の経験だけに基づくために新しい商品が生まれない, 今までの人事制度が引き継がれているために退職率が上がる,新しい人材が入社してこない, 株主からの応援が減る, 投資家から選ばれない, など様々です.将来的に既存事業の欠陥に気付いたり,補ったり,他領域へ新規事業を展開したいならば, これまでその企業に無かった新たな視点を取り入れることが有効なのです.

―― 私は「働く人材」の視点でもデメリットがあると思いました.世間で重要視されていることからも,ダイバーシティを取り入れない企業には人材が集まらなくなるのではないでしょうか.
佐々木:働き手の意識や価値観・ライフスタイルも変化しているので, 人事戦略でもダイバーシティは必要です.他にも大切な視点に,投資があります.近年,ESG投資によって企業の評価方法が変化しています.ESG投資とは,Environment(環境)とSociety(社会),Governance(企業統治)に配慮している企業を選別して行う投資です.ESG投資は国連が提唱し,投資額の半分をESGに配慮している企業へ投資する動きが出ています.すなわち,ESG配慮の有無で日本国内でも何十兆というお金が動き,ESGに配慮していない企業には投資が向かないということです.また,米証券取引所ナスダックでは女性などマイノリティの役員がいない企業は上場させない方針を打ち出しました.ですから,デメリットはこれから増えていくと思います.

 

3.ダイバーシティを可視化
ダイバーシティインデックスとは?

―― ご考案されたダイバーシティインデックスとは何か教えて下さい.
佐々木:企業や組織のダイバーシティを可視化する世界初の指標です. 単純に女性の数ということではなく, 組織全体のダイバーシティを健康診断するかのように様々な角度から数値化し, 経営状況との関係を分析して,偏差値を出してベンチマークし, 分析結果をCEOに提供します.
組織はダイバーシティを取り入れる必要があります.それは先程述べたダイバーシティがないとイノベーションが生まれないという点,そして企業はESG投資により財務という売り上げだけでなく非財務な部分も重要になったという背景があるからです.講演や企業へのコンサルティングを通して,ダイバーシティ推進企業として表彰されていても,中の実態は何も変わっていない「見かけだけのダイバーシティ」に課題を感じている人事部やCEOが多くいることが分かりました.現在の評価指標は,企業の人事部が回答したアンケートであり「ダイバーシティ推進室がある」「女性の割合は〇%,昨年より△%増えた」「障がい者を雇用している」といった制度の有無や単一の数値を評価しています.全社員の意識と会社の見かけの意識が必ずしも一致していないということが問題です.そこで「ダイバーシティインデックス」を考案しました.

―― 組織全体のダイバーシティの意識を可視化するとはどのように行うのでしょうか?
佐々木:組織内全員に対して年に一回,アンケートと4択のテストを実施します.全員が参加するデータを統合すると,本当にダイバーシティがその組織全体に浸透しているかが分かります.「営業部には浸透しているが開発・研究部には全く浸透していない」というように具体的に状況を把握することができるので,それを基に研修することで,組織のダイバーシティが効率よく進むということです.

―― 既にダイバーシティインデックスの導入事例があると思います.佐々木さんが感じる課題と今後の展望を教えて下さい.
佐々木:企業によって異なりますが,大きく捉えると「組織全体がダイバーシティについて正しく理解が出来ていない」という現状があります.日本ではダイバーシティというとまだまだ「女性活躍推進」のイメージが強く,「女性の割合が何%になればOK」等,本来のダイバーシティを理解していない組織が多いことが現状です.まずは,組織全体にダイバーシティやそのメリットを正しく理解してもらい,人材を活用し組織の活性化に繋がって欲しいです.
また,今後データが蓄積されると,テストの成績と株価や利益率に正の相関があることが分かるのではないかと考えています.5-10年後に投資家が判断に用いる指標になればと思っています.今年の夏からは,海外にも展開することが決まっています.

 

4.ダイバーシティの第一歩としての女性活躍推進
―― 先ほど,日本では「ダイバーシティ=女性活躍推進」の印象が強いというお話がありました.「ダイバーシティの第一歩としての女性活躍推進」という位置付けを忘れてはいけないと思いますが,まずは女性活躍推進の活動をしていこうということだと思います.女性が置かれている具体的な状況に対してお考えをお聞かせください.

―― 能力のある女性が見合った地位に就くことが難しいという現状があります.その理由の1つに,妊娠や育児のために会社を休職するであろうという女性へ向けられる世間からの勝手な憶測があると思います.これについて,企業はどのように考えるべきでしょうか?
佐々木:私は自身の経験からも子育ては「人材研修期間」であると思います.これまでは一人で自由に動けたことに対し,自分がリーダーシップを持ちながら命を育てていくという様々な管理をしなければならいないからです.しかしその時間は貴重で, 社会の仕組みや街づくりまで, 今まで気付かなかったことに気付ける,多様な考えを身に着ける格好の機会です.育児を経験した人はより「できる人材」となって会社に戻ってくるでしょう.そのような人材を手放す企業はもったいないですし, 仕事に戻らないのももったいないことです.

―― 女性は妊娠・出産というライフイベントがある以上,実績を「量」で評価すると不利になると思います.だからといって,女性を優遇するということでは,それ以外の方にとって不当な評価となります.本当に能力のある人を登用するためには,どのような評価方法を採用するべきでしょうか?
佐々木:不利になることはありませんし, これは女性の妊娠・出産だけの問題ではありません.今は介護の問題もあるので男性も含めて同じ可能性を持っています.労働時間でなく実績の「質」で評価すればいいのですが,この課題背景には労働基準法があります.今の法律では労働時間と賃金が紐づいているのが現状です.しかし企業内での役職や評価は自由に決められるのですから、企業ごとにできるだけ多くの人が活躍できる人事評価制度を工夫していくことが必要だと思います.

 

5.前向きな人と付き合い,良い情報に触れましょう!
――最後に,学生にメッセージをお願い致します.
佐々木: ぜひ「前向きに歩んでいる人たち」と付き合って下さい.今はたくさんの情報が溢れていますが,自分から取りにいく情報は似たものばかり. 意外と良い情報には触れられていないと思います.例えば,私達が運営しているイー・ウーマン(http://www.ewoman.jp/ )のサイトを見てみて下さい.多くの前向きな事例や良い情報に触れられます.無料登録して毎週様々なテーマで議論する「働く人の円卓会議」に参加してくだい. 自分で考え,意見を述べることでダイバーシティな考え方を身に着けることができます.毎年開催している「国際女性ビジネス会議」は,世界一クオリティの高いダイバーシティ会議です.世界から1000名以上が参加していて,大学生達からは「こんなに素晴らしい大人にあったのは初めてだ」「やる気が出た」等の意見を頂いています.2021年は9月12日に開催が決定しています.ぜひ参加してください.

――大変勉強になりました.ありがとうございました.

 

6.インタビューを終えて
今回紙面の関係で佐々木さんのお言葉をまとめてしまったのですが,実際のお言葉は人間味に溢れていて優しい印象でした.
佐々木さんは何事に対しても前向きで,ご自身の仕事に責任感をもって向き合っていらっしゃるように感じました.私も1つの1つの仕事をしっかりと,楽しんで取り組んでいきたいと思います.

 

2021年1月29日
Web会議にてインタビューにご協力いただきました.

 

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