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公益社団法人 日本工学アカデミー

日本工学アカデミーは、工学・科学技術全般の発展に寄与する目的で設立された産学官の指導的技術者の団体です

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電力流通システムプロジェクト

本報告は、公益社団法人日本工学アカデミー電力流通システムプロジェクト「電力の自由化について海外先進国から学ぶこと」の調査研究結果を取りまとめ公表するものである。

メンバー

リーダー: 臼田 誠次郎

(所属はいずれも2017年1月30日現在)

・リーダー: 臼田 誠次郎(日本工学アカデミー会員)
・委員: 大来 雄二(日本工学アカデミー会員・金沢工業大学客員教授)、玖野 峰也(日本工学アカデミー監事)、栗原 郁夫(電力中央研究所首席研究員)、田中 秀雄(日本工学アカデミー常務理事・事務局長)

これまでの活動(報告書)

要旨

  1. プロジェクトを立ち上げた背景
    日本では2016年4月から電力の全面自由化がスタートした。
    それ自体大きなインパクトであるとともに、並行して再生エネルギーの固定価格買い取り制度や原子力の再稼働の問題が絡んでいるため、多くの課題を抱えている。一方、電力は今後とも社会の重要なインフラであり、その役割は一層拡大してきている。
    但し、電力システムは電気を送り込む力であるkW(電力―水道でいう圧力ポンプ)と実際エネルギーとして使われるkWh(電力量―水道でいう所謂水そのもの)の要素があり、水道と似た面を持っているが、最大の違いは少量以外、貯めておくことができないことである。このため各瞬時に発生する量と使う量が常に同じでなければならない(同時同量が必須)ことが、電力の安定供給を難しくしている。(水道は不足の時でもちょろちょろ出しで時間を掛ければ必要な量を得ることができるが、電気の場合は大停電になる)
    こうした状況を踏まえ、本プロジェクトチームでは、今回の一連の改革の中で、将来の電力の安定かつ低廉な供給に課題がないか、自由化先進国から学び、必要な提言を行うこととした。
  2. 検討の視点
    日本は幸い大きな混乱なく全面自由化に移行したが、電力系統自身の物理的特性には変化がないので、次のようないくつかの課題を抱えている。
    1. 電力の需給には常に同時同量、即ち各瞬間に発電量と消費量が同量である必要があるが、コントロールの難しい再生エネルギーが引き続き増加した場合の対応を考えていかなければならない。また、再生エネルギーが増えていくと、回転の慣性力により、系統安定の前提になる電圧や周波数の維持に大きく貢献している火力発電所等の量が減り、系統の安定維持が難しくなる。
    2. 再生エネルギー固定価格買い取り制度により、電気料金の中で再生エネルギー賦課金が上昇(28年5月から2.25円/kWh)し、平均的家庭の電気料金の1割程度に迫ってきている。この賦課金は今後も上昇し20年間続く。26年にはその総額は2兆円を超える見通しである。
    3. 原子力発電所の新設がなければ40年後には準国内生産の安定した発電設備がなくなる。国のベストミックスのあり方考えなければならない。
  3. 上記のような問題に自由化先進国はどのように対応したか
    • 米国は自由化後にカリフォルニアで、作為的に需給ひっ迫を作り出し、電気料金が暴騰して暴利を得たエンロン社の事件が発生。その後自由化を停止する州が続出し、現在では14州が自由化されている。自由化された州とされていない州の料金のレベル差は見られない。
    • イギリスは自由化の口火を切った国であるが、自由化後数年は電気料金が下がったもののその後は自由化前のレベルを超えて上昇。また、発電所を建設してもその電気が売れる保証がないため建設が進まず、原子力発電所の電気を買い取り保証するなどして電気の不足対策を推進中。
    • ドイツでは再生エネルギーが30%を超えているが、その賦課金等により一般家庭の電気料金は2000年頃の2倍になっている。また発電量の変動が多くかつ地域的に偏在しているため、周辺国との連系により安定を維持している。また、再生エネルギーの増加に伴い最新鋭の発電所も稼働率が大幅に低下。しかし不安定な電源への補完として廃止は許可されない。
    • 発送電分離を先行して導入した欧州では、計画値同時同量の電源運用に起因する周期的な周波数変動が顕在化している。
  4. これらの実態を鑑み今後検討すべき
    1. 将来の安定供給の維持
      1. 入札制度のもとでは将来の需要の獲得に関して不確実性が高まり電源の建設に慎重になる。それでも必要な電源を確保する仕組み作り
      2. 電力自由化の下で抑制されがちなメンテナンスを確保する諸方策
      3. 再生可能エネルギー電源は優先的に使用されるため,基幹系統の電圧や安定性を維持する重要な役割を負う一方、稼働率が低下する従来型電源及び予備電源の確保策
      4. 異常時、特に大規模天災、大規模事故等での対応は自動制御システムを活用するが、最後は人間が介在して対応せざるを得ない。そうした技術者の育成。
    2. 電気料金の安定化の諸方策
      1. 高額の再生エネルギー固定価格買取制度により電気料金の賦課金は2兆円にも上り、家庭の電気料金の1割に迫り今後ますます増えて20年間続く。この問題をどのように対処すべきかの検討。
      2. 再生エネルギー固定買取制度が終了した場合の再生エネルギーの取り扱い、廃棄物処理費用の問題のシミュレーション等。
    3. 原子力発電の取り扱い
      ただ、必要だというだけでは結果的に40年後にはなくなってしまう。また、初期投資が大きいため自由化の中では新設が難しい。こうした状況を踏まえ、国のセキュリティとしての原子力発電の取り扱いを議論し、引き続き確保するということであれば、具体的に新設ないしは現地点での取り換え等の諸方策の検討。
  5. 提言
    技術面での検討により、日本の自由化の中で残された課題や自由化先進国の課題が見えてきたが、この問題は単に技術面だけで済む話ではない。
    20年後、40年後を見据えた電力安定供給のため、工学アカデミーの中に前項のような課題への諸方策を策定する技術専門家並びに文科系専門家両者による検討委員会の設置を提言する。
    なお、こうした課題について既に警鐘を発している組織や団体もあるので、そうした方々との意見交換も重要と考える。
    また、電力システムの運用には、電力・事業・燃料・マネー・規制・制御監視の6ネットワークが円滑に機能していることが必要なこと、並びに、設備形成に時間がかかることから短期利益優先の風潮から距離を置くことの重要さを忘れてはならない。
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