skip to Main Content

公益社団法人 日本工学アカデミー

日本工学アカデミーは、工学・科学技術全般の発展に寄与する目的で設立された産学官の指導的技術者の団体です

お問い合わせ

Phone: 03-6811-0586
〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町二丁目7番3号 HKパークビルⅢ 2F

アクセスマップ

UK-JAPAN2008 日英シンポジウム
“Privacy and Security in the Information Society”

国際委員会日英TG主査 柳父 悟/SATORU YANABU

  表題テーマのUK-Japan Symposiumが2008年11月11、12日に英国大使館で開催された。4年前から想を練ってきた日英工学アカデミー共催シンポジウムの第1回であり、日英修交150周年を記念する“UK-JAPAN2008”の公式行事として認められた。英国側からはP. Saraga副会長以下計8名が参加し、日本側は中原会長はじめ関係者、9名の講演者、一般参加者を含めおよそ50名が出席した。
Opening Sessionは筆者が座長となり、中原会長、Saraga副会長、英国大使館C. Pook科学技術参事官の挨拶で幕を開けた。続いて情報セキュリティ大学院大学の林紘一郎副学長と、Surrey大学のN. Gilbert教授による基調講演があり、ICTの発達・普及に伴い、privacyとsecurityの概念がそれぞれの国においてどのように変化してきたかが概観された。続く3つのセッションについては、それぞれの共同座長を務めた日本側TG委員から後に紹介される。
初日夕刻には大使館内のPook氏邸においてレセプションが行われた。その席でご挨拶頂いた情報セキュリティ大学院大学の辻井重男学長には、当初から有益なご教示を賜り、また英国大使館、(独)科学技術振興機構に多大なご協力を頂いたことに謝意を表する。
ここで日英関係について全般的な感想を述べておこう。英国は周知の如くScienceには大変強く、ノーベル賞受賞者も多い。日本人も最近ノーベル賞を取得する人が増えてはいるが、やはりまだ差があることは否めない。逆にEngineeringについては、かつて産業革命を成し遂げた英国ではあるが、現状では日本の方が進んでいるといってよいだろう。そうした違いの遠因を探れば、孤独に耐え得る狩猟民族と、集団生活に拠り所をおく農耕民族の差に行き着くのかも知れない。シンポジウムの発表でも、テーマの捉え方に両国の国民性の差異を窺うことができ、興味深いものがあった。
総合的に見ると、英国は過度の公害もなく、政策もEUに限らず、アメリカにも偏らず、うまい形で収まっている。私は日本もアメリカ一辺倒ではなく、多くの国と付き合い、それぞれの良い所を学んで、科学政策に生かすべきと考える。
会議終了後には、両国アカデミー間で協議を行い、来年度以降もこの種の催しを継続する方針が合意された。今後両国間の交流がさらに深まり、互い長所を学び合える機会が増えることを期待したい。

Peter Saraga氏
英工学アカデミー副会長
Chris Pook氏
英国大使館科学技術参事官

Session1:Policy and Perception

山﨑 弘郎/HIRO YAMASAKI

情報化社会において個人のプライバシーや安全安心に関連する政策が国民に受容されるかとの問題を次の5人が論じた。大山教授(東工大)は健康保険や年金などの個人情報を一箇所に収容し、いつでも当人が見られるようにする「e-P.O.Box」構想を紹介した。Adams講師は日本人の情報構造である「内と外」「本音と建前」などについて解析し、その変化を論じた。須藤教授(東大)は日本の「次世代 e-Government」の構想について、政府機関のワンストップ・サービスとプライバシー保護について述べた。Hopper教授は情報機械が消費する電力コストを取り上げ、情報処理ジョブのグローバル最適アロケーションとセンサーネットワークによる環境負荷の抑制を提案した。山口教授(奈良先端科学技術大学)は情報セキュリティに関する政策の再構築について、省庁の壁を超えてワンストップ・サービスを実現する計画と問題点を論じた。
英国はプライバシーより生活の安全を優先して多数の監視カメラを設置した。日本ではプライバシーにこだわって行政の効率が悪いが、情報技術を利用してその両立に挑戦している。


Session 2: Technology 1

今井 元/HAJIME IMAI

最近の技術動向について下記4件の発表があった。Jones教授は情報システムの“dependability”を維持するためにさまざまな要因(failure、error、fault)について意識しておく必要があるとの見解を述べた。大津氏(産総研)は最近のパターン認識の発展について、個人認識、特に動画からの検索について議論した。次にThomas氏は米国家安全保障局(NSA)の出資のもとに米英企業で共同開発され、最近一般公開されたセキュリティソフトウェア “Tokeneer”を例にとり、セキュリティのプロセスについて議論した。最後に宇佐美氏(日立)はICマイクロチップを用いたRFID(Radio Frequency Identification)のコンセプトについて紹介し、電源が不必要であることなどの特長を活かした応用について議論した。
このセッションでは英国からの発表が概念的なものであるのに対し、日本からの発表は具体性の高いものであった。


Session 3: Technology 2

雨谷 昭弘/AKIHIRO AMETANI

このセッションは若手研究者の技術発表の場としての性格を持たせている。下記4件の講演が行われた。塩原氏(富士通)は生体認証技術、特に非接触の掌静脈パターンを用いる認証手法の特徴および実用例を紹介した。次に宮地教授(北陸先端科学技術大学院大学)はセキュリティ保持のための楕円曲線暗号化法(秘密鍵)の特徴と応用例および今後の目標、更にその国際規格化(ISO)について発表した。O'Neill教授は次世代ICT技術におけるデータのセキュリティ保持に関わる技術の構築および講演者が主導している研究と今後の研究目標について発表した。最後に大塚氏(産総研)はハードウェアのセキュリティ保持の必要性、モデル化(TCC2004,CRYPTO2008)および効率化について議論した。
ICTに関わるセキュリティ保持技術は大幅に進展しており、実用に供されてきている。しかしながら、討議の席上において、これらの技術は障害者などへの対応が考慮されているのか、個人の生命の危険への対応策はあるのか、更に社会全体として受け入れられるものかなど、個人の人格・尊厳に関わる基本的かつ重大な疑義が提示された。


辻井重男会員(左)と岡田雅年国際委員長
柳父 悟会員
日英TG主査

 

Back To Top